「道悪」「京都適性」の差が如実に表れた春のグランプリ。ブローザホーン&菅原明良騎手の”人馬一体”が悲願成就【宝塚記念】

6月23日、上半期の総決算となるファン投票レースの宝塚記念(GⅠ、京都・芝2200m)が降雨のもと「重」の馬場状態で行なわれ、単勝3番人気のブローザホーン(牡5歳/栗東・吉岡辰弥厩舎)が外ラチ沿いを豪快に追い込み、2着となった7番人気のソールオリエンス(牡4歳/美浦・手塚貴久厩舎)に2馬身差を付けて快勝。ブローザホーンはもちろんのこと、菅原明良騎手、吉岡調教師もGⅠ初制覇となった。

3着には大阪杯(GⅠ、阪神・芝2000m)の覇者で5番人気のベラジオオペラ(牡4歳/栗東・上村洋行厩舎)が粘り込み、4~5着には途中から先頭を奪った6番人気のプラダリア(牡5歳/栗東・池添学厩舎)、大阪杯で2着した4番人気のローシャムパーク(牡5歳/美浦・田中博康厩舎)が健闘した。

なお、オッズ2.3倍の1番人気に推されたドウデュース(牡5歳/栗東・友道康夫厩舎)は道中、インの苦しい位置での競馬を強いられたこともあり、内目を突いた直線でも伸びを欠いて6着に敗れた。また、オッズ3.7倍の2番人気となった昨春の天皇賞馬ジャスティンパレス(牡5歳/栗東・杉山晴紀厩舎)は勝負どころで置かれてしまい、10着に大敗した。
土曜日の最終レースあたりから降り出した雨は、その後、断続的に降り続け、最終レースは「良」で施行された京都・芝コースの馬場状態だが、日曜日の第4レース(芝1600m)は「重」まで悪化。メインの宝塚記念まで表示は「重」のままだったものの、レースが始まるや否やスコールのような激しい雨に見舞われて、出走馬は最後まで天候の成り行きに翻弄された。

加えて今年は、ディープインパクトが勝った2006年以来18年ぶりとなる京都開催。コース適性も勝利を手にするための重要なファクターとなったため、一筋縄ではいかないレースとなることは充分に予測された。

ちなみに、「道悪」「京都適性」という二つの重要ポイントから推奨した主軸は、6番人気のプラダリアと、3番人気のブローザホーンの2頭とし、日本での道悪対応力が未知数のドウデュースは狙いを下げるという方向で結論を出したが、ほぼその通りの結果となったことは、筆者としては以降の自信になる内容であった。 レースはルージュエヴァイユ(牝5歳/美浦・黒岩陽一厩舎)の積極的な逃げで始まり、そこにベラジオオペラと、ゲートで後手を踏んだプラダリアが押しながら前へ行き、3頭が雁行体勢で先行する形になる。ジャスティンパレスはソールオリエンスと並ぶように中団の7番手付近を進み、4番人気のローシャムパークがその後ろの9番手、ドウデュースとブローザホーンはさらにその後ろの10~11番手で追走した。

1000mの通過ラップは1分01秒0。渋った馬場状態を考えても、決して速いペースとはいえず、多くの騎手が可能性を意識して無理な競馬を仕掛けなかった結果、ペースが落ち着いたものと考えられた。

レースは第3コーナー付近から動きが出て、引っ張り切れない手応えのプラダリアが先頭に立ち、後続も状態の悪い内を避けながら、馬場の外目を通って進出を開始。馬群は大きく横に広がりながら直線へと向いた。

まず馬場の中央へ持ち出したプラダリアがいち早く仕掛けて先頭に立つが、そこへベラジオオペラが馬体を併せにいき、熾烈な先頭争いを繰り広げる。その外から道悪得意のソールオリエンスが中団から脚を伸ばすと、さらにその外から前半は後方で息を潜めていたブローザホーンが爆発的な末脚で急襲。一気に前を飲み込むと、ソールオリエンスに2馬身差を付けて見事に初のGⅠタイトルを手に入れた。

レース前から「他の馬が気にするぶん有利だと思う」と、ブローザホーンの道悪適性の高さに自信を持っていた菅原明良騎手は、会心の勝利に喜びを抑えられないという表情で、こう振り返る。

「重馬場は苦にしないタイプなので、いつもと変わらず走ってくれましたし、向正面で少し位置を上げて、いいところで競馬ができたと思います。4コーナーを回ってくる時も待てるぐらい余裕があったし、強かったですね。馬に感謝しかないです。今年中に(GⅠを)勝ちたいという気持ちは強かったので、勝ててホッとしています」
同騎手は2019年のデビューから31勝を挙げて新人騎手特別賞、民放競馬記者クラブ賞を受賞。21年以降は年間70勝オーバーの優れた成績を残してきた若武者に、今回ようやく大きなスポットライトが当たったという印象だ。騎乗馬の質は年々上がってきており、これからの大ブレイクが待たれるジョッキーのひとりである。

ブローザホーンは今年1月の日経新春杯(GⅡ、京都・芝2400m)で重賞初勝利を挙げると、春の天皇賞(GⅠ、京都・芝3200m)で2着に食い込んでトップホースの1頭に数えられるようになった遅咲きの上り馬である。馬体重は420キロ台と牡馬としては小柄だが、タフな馬場でバトルする欧州の強豪にも450キロを切っていそうな小型馬が多いように、そうした特質を内包している印象だ。今回は道悪という得意の条件を活かし切ったが、この鋭い差し脚を見ると良馬場でも十分勝負になるのではないかと思える。秋に大きな楽しみを持たせる新星の誕生を喜びたい。 昨年の皐月賞馬であるソールオリエンスは、それ以降は歯がゆいレースを続けていたが、今回の追い切りでは往時を思わせる動きを披露し、復調気配を漂わせていた。調子が戻ってきたところへ、「重」の皐月賞を制した道悪上手のキャラを活かしての好走が今回の2着だったと言えるだろう。横山武史騎手は「もともと古馬になってからと思っていた馬」と語っており、さらなる上積みがあれば、こちらも秋の中長距離戦線を沸かせてくれるはずだ。

ベラジオオペラは正攻法の競馬でGⅠホースとしての威厳を示した。大阪杯の勝利は軽視されがちだが、この一戦で彼のポテンシャルが正味でトップクラスにあることを示したと言っていいだろう。

筆者が推したプラダリアは積極的に前目へ付ける競馬で健闘したが、最後の競り合いに敗れて馬券圏内には残れなかった。ゲートで後手を踏み、追っ付けて先行した分が堪えた感じだが、それでも「京都得意」「道悪上等」という二つのポイントはしっかりと活かし切った。GⅠではやや家賃が高い印象もあるが、馬場が渋った際の上位進出をマークしていきたい1頭である。
さて、武豊騎手が「馬場のせいにはしたくない」と語ったドウデュースである。クリストフ・ルメール騎手が「ディープインパクト(の仔)に、この馬場は難しい」とコメントしたジャスティンパレスと表現の違いが興味深かった2頭だが、客観的にみると、今回の凡走はやはりどちらも道悪が向かなかったという点に帰着するだろう。第65回宝塚記念は「彼らの日ではなかった」。そんなことがあるのも競馬である。

文●三好達彦

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