【6月25日付編集日記】未来の新聞

 高知市中心部に近い小さな山にある広大な植物園。アジサイが咲き誇る園内の一角に、「日本の植物分類学の父」とされる牧野富太郎が収集した押し葉標本などを保管する施設がある

 ▼明治期、牧野は日本の隅々まで訪ねて植物を採集した。出かける際に必ず携行したのは新聞。採取した植物を丁寧に新聞紙にはさんで持ち帰り、標本を作って花びらや葉の構造を精巧にスケッチした

 ▼吸水性が高く、和紙などと違い、どこでも安く入手できたことが新聞を使った理由とされる。全国の植物愛好家からも新聞に包まれた珍しい山野草などが届けられた。94年の生涯で収集した標本は40万枚超に上る

 ▼施設でかつて使われた100年以上前の新聞を見せてもらう機会があった。色あせた紙には政治家の演説やコメ、魚の価格動向、商店の特売などの広告が掲載されていた。牧野は訪問先で発行されていた新聞も利用した。収蔵されている一部の新聞は貴重な史料になっている

 ▼今も新聞紙は植物採集に欠かせないらしい。植物を包んだ新聞が大切に保管され、数十年後に読まれる可能性もある。未来の人々が混迷する政治・経済、悲惨な戦争の記事が並ぶ紙面を読み、何を思うかが気になった。

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