姫路城は外国人観光客のみ入城料を4倍強に引き上げ検討 遅れている「観光客料金」成功のカギを握る納得感

外国人観光客の入城料金の値上げが検討されている姫路城 ※画像は姫路城運営事務所の公式X『@himejijo_ops_o』より

円安の影響もあり、訪日者数が増加した外国人観光客。コロナ禍が明けた観光名所各地は、賑わいを取り戻す一方で、観光客によるゴミのポイ捨てからトイレマナーの問題まで、オーバーツーリズムによる被害も度々報じられている。

そんな中、声をあげる観光名所も現れた。世界遺産として知られる兵庫県の姫路城は「外国人観光客料金の設定を検討する」と、城の管理をする姫路市の清元秀泰市長が6月16日に市内で開かれた国際会議の場で発言。これに大きな関心が集まっているのだ。

「姫路城の入城料は現在、大人(18歳以上)1000円。清元市長は、この入城料を“7ドル”と表現したうえで、“外国人観光客は30ドル、市民は5ドルくらいにしたい”という考えを示しました。まだ決定されたわけではないものの、“外国人観光客料金”の設定は海外の観光名所ではすでに多く導入されていることから、ネット上でも賛成派の声が多く見られます」(夕刊紙記者)

姫路城管理事務所に話を聞くと、担当者は

「市民の日常生活に(オーバーツーリズム)被害が出ているわけではない」と前置きをしたうえで、年末年始やクリスマスシーズンなどのホリデー期間には外国人観光客が集中する現実はあるとのこと。そのうえで、外国人観光客料金については前向きに検討したいという意向を示す。

「姫路城を未来に引き継いでいくことを考えた時、保存・維持、修繕補修費などは必要になる。人件費や材料の高騰もあり、入城料の見直しはあっていいのかなと思っています。年間40万人以上の外国人観光客の方がいらっしゃることを踏まえ、検討している最中です」(姫路城管理担当者)

■なぜ、日本は「観光客料金」が「外国人も同じ」なのか

実際、「世界一入場料が高い遺跡」として知られているヨルダンのペトラ遺跡は現在50ヨルダンディナール(JOD)で、円換算にして約1万1千円(6月24日時点、以下同)。ちなみに地元民は1JOD(約225円)だという。ほかにもインドのタージ・マハルは地元民50ルピー(約95円)のところ、外国人観光客は1100ルピー(約2100円)と22倍だ。エジプト・ギザのピラミッドやペルーの世界遺産・マチュピチュも地元民と外国人観光客で見学料に数倍の開きがある。

なぜ、世界の名だたる観光地では外国人観光客と地元民で異なる価格設定がなされているのか。反対に、なぜ日本では地元民も外国人観光客も料金が同じなのか。観光客料金を設定する意義とはなんなのか。弊サイトでは、経営コンサルタントの岩崎剛幸氏に話を聞いた。

まず岩崎氏は、日本人特有の考え方として、「同じサービスで価格を分けるという発想がなかった」ことを指摘したうえで、“観光客料金”導入のメリットを挙げる。

「文化遺産、自然環境を維持するという観点からは、観光客がたくさん来れば当然メンテナンスにお金がかかります。ところが、日本人は地元民と観光客を区別せず、できるだけ公平にサービスを提供するのが美徳、という意識が強かったんですね。

ただ、ここまで観光客が増えるとそうもいかない。たとえば木造建築では必要以上に人が入ると耐久性の懸念も出てくるでしょうし、補修などの負担も増える。各地で地元の人たちの通常の生活に影響が出る現状もあります。文化・自然と市民生活を守るという2点において、観光客料金として上乗せしたお金を払ってもらうのは理にかなっているのです」(岩崎氏)

海外では、前述のように観光客料金を設定するケースのほか、「観光税」を徴収するケースもある。スペイン・バルセロナやブータンなどでは、観光客は宿泊の際に別途税金が加算される。インドネシア・バリ島では、2024年2月から入国前に観光税を支払わなくてはいけなくなった。

■外国人観光客料金の設定で大事なこと

世界ではすでに導入され始めている観光客への特別価格設定。観光立国を謳う日本の体制が他国に比べて遅れているのは認めざるを得ない――と前出の岩崎氏も話す。

「昔の日本は世界的に見ても物価は高かったし、極東の島国。気軽に外国人が観光に来られるような場所ではありませんでした。

観光地としてもスポットは限定的で、日本に観光国の自覚がなかったのはたしかでしょう。ただ近年の和食ブームや、世界遺産をはじめとした風光明媚なスポットもたくさんあることが知られ始め、国も観光立国をアピール。さらに円安が追い風となって、世界中から人が集まるようになりました。それなのに、観光客を受け入れる経験、ノウハウが追いついていない」(岩崎氏)

京都では、市バスがあまりにも観光客で混雑するようになり、市民の足に影響が出ていることを受け、6月1日から東山・金閣寺方面など観光需要が多い路線を増便。そのほかにも、土日祝限定で市内の観光地を巡る「観光特急バス」(大人500円・子ども250円)のサービスを始めた。

増加の一途をたどる外国人観光客。日本もようやくその対策に腰を上げたといったところだが、岩崎氏は「外国人観光客料金の設定は、納得性を高めることが大事」だと言う。

「観光スポットの入場料・見学料に外国人料金が設定されるのは保全維持という意味でわかりやすい。その一方で、生活圏への対策となると、京都のように、市民生活用のバスと観光客用のバスの2路線を作り、入り口から分けてしまうというのも一つの解決策です。

また、旅館などにおいても観光客には何かお土産や特別料理を提供するなどして、明らかな付加価値をつけて宿泊料金を高くするといったプランが考えられます。あくまでもお客さまに喜んでいただく価値のための高い値段設定だと納得してもらえることが大事です」(前同)

姫路城が今後、高額な外国人観光客料金を採用すれば一気に追随するところが現われそう。議論はまだまだ始まったばかりだ。

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