土壇場の同点弾でGS突破のイタリア代表、課題山積のなか決勝Tを勝ち上がるために必要なのは「スカマッカとキエーザの“覚醒”」【EURO2024コラム】

8分の後半アディショナルタイムも残り1分を切った実質的なラストプレーで劇的な同点ゴール。引き分け以上が求められる試合でクロアチアに先制を許し、大きな困難に陥ったイタリアが、最後の最後でベスト16への切符を掴み取った。

ここまで1分け1敗と後がないクロアチアには勝利以外に勝ち上がる可能性がなかったのに対し、1勝1敗のイタリアは引き分け以上なら2位抜けが確定。負けても3位で勝ち残る可能性が残る、ある意味では中途半端な状況だった。とはいえ同グループのスペイン対アルバニアの結果によっては最悪4位敗退、3位でも得失点差で勝ち残れない可能性があっただけに、引き分け狙いではなく勝つために戦うべき試合であることは明らかだった。

過去2試合の4ー3ー3ではなく、前線をマテオ・レテギ、ジャコモ・ラスパドーリの2トップとした3ー5ー2の布陣をピッチに送り出したイタリアは、立ち上がりの10分間こそクロアチアにボールを回されるが、徐々に押し返して主導権を手元に引き寄せていく。

とくに有効だったのが、中盤でのポゼッションからのサイドチェンジでウイングバックを走らせて一気に前進し、そこからクロスを折り返す形だった。15分過ぎから再三危険な場面を作り出して、連続してコーナーキックを取得。21分にはCBリッカルド・カラフィオーリのクロスにレテギが頭で合わせる決定機も生まれた。

しかしイタリアも、失点のリスクを負いたくない気持ちに後ろ髪を引かれてか、試合をペースアップして攻勢に立とうとする積極的な姿勢に徹し切れず、主導権を握って試合をコントロールするだけで満足するかのように、ビルドアップが詰まると無理をせず後ろに戻す場面も少なくなかった。
こうして0ー0で折り返した後半立ち上がりの51分、ゴールキックからのビルドアップでボールを奪われ、そこから攻め込まれた場面でMFダビデ・フラッテージがハンドを取られてPKを献上。MFルカ・モドリッチが蹴ったこのPKはイタリアの守護神ジャンルイジ・ドンナルンマが見事なダイブを見せて防いだが、続いた一連の流れからモドリッチに押し込まれて、結局先制を許してしまった。

以降は守勢に回ったクロアチアを一方的に押し込む展開となったが、なかなか決定機が作れないまま時間だけが過ぎ、巧妙に試合を眠らせるクロアチアの術中に嵌った感もあった。後半アディショナルタイムに入ってからも、強引にロングボールを放り込んでははね返されるという埒の明かない展開が続き、イタリアの敗戦が濃厚となった。

しかし土壇場の98分、カラフィオーリが意を決して自陣からドリブルで持ち上がり、フラッテージとワンツーでペナルティーエリア直前まで到達すると、DFラインを引きつけてフリーのマッティア・ザッカーニに絶妙なパス。残り10分に投入された左ウイングがダイレクトでコントロールショットを放つと、ボールはGKをきれいに巻いてファーポスト際に飛び込み、最後の最後でイタリアに2位突破の切符をもたらした。

イタリアにとっての最大の収穫は、苦しみながらもグループ2位でベスト16への勝ち上がりを決めたこと。スペインに完敗したショックをどうにか克服し、不調とはいえ簡単な相手ではないクロアチア相手に、ほとんどの時間帯で主導権を握って試合をコントロールしたことも、不本意な形で失点を喫したことを脇にどければ収穫と位置付けることが可能だ。

その不本意な失点の後も意気消沈することなく攻勢を保って押し込み、最後にゴールを奪った点も、初戦のアルバニアと同様、困難に対する反発力の証明と言える。さらに、最初の2試合とは異なる3ー5ー2の布陣が、4ー3ー3と同様に攻守のバランスを保証できる選択肢であると分かったのも、決勝トーナメントを戦ううえでは小さくない収穫だろう。
個々のプレーヤーに焦点を当てれば、最大の収穫はやはりカラフィオーリだ。守備だけでなく攻撃においても、ビルドアップにとどまらず敵陣に進出してチャンスメイクでも大きな貢献を果たし、しかも消極的なプレー選択に甘んじることなく常に勇気を持ってプレーするパーソナリティーを見せた。長短の正確なパスを繰り出せるCBアレッサンドロ・バストーニとのペアは当初、ともに左利きということもあって顔をしかめる向きも少なくなかったが、いまやイタリアを攻守両局面で支える土台として不可欠な存在になっている。

とはいえ、クロアチア戦では今後に向けた課題も浮き彫りになった。テクニックは高いがインテンシティーに欠けるクロアチアに対しては、ハイペースの展開で押し込んで後手に回らせる戦い方が効果的だったにもかかわらず、リスクを怖れて安易な横パスやバックパスで攻撃をスローダウンする場面が少なくなかった。それがなくなったのは、先制を許して攻めるしかなくなった最後の30分のことだ。

ルチャーノ・スパレッティ監督は試合直後の『Sky Italia』のインタビューで、「引き分けでもOKだという内心が、チームとしての振る舞いに表われていた。このチームにできることはもっとたくさんある。前半の我々はこのチームへの要求水準をクリアしていなかった」と語っている。

これはゲームマネジメント、そしてその背景にあるパーソナリティーや経験値の問題だ。ジョルジーニョ、ニコロ・バレッラ、ジョバンニ・ディ・ロレンツォ、ドンナルンマを除くと、クラブでも代表でも大舞台の経験値が高いとはいえず、プレッシャーの大きい国際大会の重要な試合で本来のパフォーマンスを発揮しきれない選手もいる。チームとして常に勇敢かつ積極的な振る舞いを保ち続けられるかが、指揮官とピッチ上でチームを引っ張るリーダーたちにとって今後の課題になるだろう。
グループステージの3試合を通して見れば、課題は守備よりもむしろ攻撃だ。アタッカー陣の中で最も個のクオリティーが高く、中核的な存在として決定機に絡むことが期待されているジャンルカ・スカマッカ、フェデリコ・キエーザはともにノーゴール。

スカマッカには、前線で縦パスを収めてチームの押し上げを助ける基準点としての機能も期待されているが、ポストプレーでは相手DFとのフィジカルバトルを嫌ってワンタッチではたく場面が目立つ。また肝心のゴール前でも自らがフィニッシュ役を担うよりも、ヒールキックのような小細工に走るなど、表面的なプレーが多過ぎる印象は拭えない。

キエーザは単独で状況を打開する強引なプレーが持ち味ではあるが、それに精度が伴っておらず、本領発揮とは程遠い。しかし、ここから始まる強敵とのガチンコ対決を制するには、絶対的な個のクオリティーで違いを作り出せるタレントの活躍が不可欠。その意味で、イタリアがどれだけ高くまで到達できるかは、スカマッカとキエーザが「覚醒」するかどうかにかかっていると言えるかもしれない。

文●片野道郎

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