泉崎駅縁起(6月26日)

 泉崎村のJR泉崎駅の由緒を知ろうと思ったら、3キロ離れた標高486メートルの烏峠[からすとうげ]に登らなければならない。山頂近く烏峠稲荷神社に「神徳碑」が立つ。鉄道会社に駅設置を請願した経緯や、停車場完成への感謝が刻まれる。建立は1896(明治29)年10月。停車場は同年2月に完成した▼長年境内に埋もれ、忘れられていた碑を数十年後に掘り起こし、史実に光を当てたのは当時の泉崎駅長だったという。終戦直後に村民を励まそうと催したのが「駅復興まつり」というから、歴史的に駅との縁が深い土地柄といえる。その駅を巡り、新たな動きがある▼駅の回りに公共施設などを建設し、同時にバリアフリー化を進める。村が基本構想を発表した。まずは駅東西を結ぶ自由通路を作り、東側に広場を設ける計画だ。懸案だった駅周辺整備を、人に優しい環境を整える中で進めていく。田園になじむ牧歌的な姿が変わりつつある▼古代ギリシャでは広場を「アゴラ」と呼んだ。市が開かれ、子どもの遊び場ともなった。かつて近在から人を集めた催事では、泉崎駅がにぎわい創出の出発点となった。令和版のアゴラとなるか。村としては全国でも希有[けう]な取り組みが、始まる。<2024.6・26>

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