アプリ使いこなせない高齢者はタクシー乗れない? 電話では予約競争に勝てず

運転席の端末に表示されたアプリからの配車予約。運転手の操作一つで予約受け付けが完了する

 「高齢者がタクシーを捕まえにくくなっている」。広島市南区の自営業男性(64)から編集局に声が届いた。スマートフォンの配車アプリが普及し、使いこなせない高齢者が取り残されているという。取材すると、一部の会社ではアプリ予約の方が早く空車を押さえられる実態が見えてきた。

 男性は最近、仕事で会う高齢者から「電話しても配車を断られることが増えた」「流しの車も捕まらない」との不満を聞かされた。新幹線や病院の予約に遅れそうになるケースもあったという。

 配車アプリは2010年代から徐々に普及。広島交通圏(広島市、廿日市市など)では「DiDi」「Uber」「GO」のいずれかを導入した会社は、法人タクシー69社の6割以上に上る。

 3社が加盟する協同組合タクシーセンター(南区)の石川正宏理事は「19年にアプリを導入後、電話で呼べるタクシーは減った」と説明。「電話の窓口も残すが、時間の余裕を持って頼んでほしい」と理解を求める。ニシキタクシー(西区)の竹内健嗣所長も「いまはアプリの方が捕まりやすい」と話す。

 同社によると、電話予約で空車が捕まりにくいのは、利用者と配車センター、運転手のやりとりに時間がかかるためという。アプリだと、注文がすぐに車内の端末に届くため、ロスがない。

 さらに、運転手不足も響いている。広島県タクシー協会によると、広島市や周辺エリアの乗務員は23年度末に3477人と、18年度末より1211人(25・8%)も減った。つまり、少ない空車をアプリの客が先に押さえ、電話の客は一層捕まえにくくなっている。

 アプリを入れつつ電話予約にも力を入れるつばめ交通(東区)のような会社もあるが、アプリが主流の会社も増えつつある。ニシキタクシーは予約の7割がアプリで、電話は3割。胡タクシー(南区)もアプリが6割を占めるという。

 タクシー業界に詳しい計量計画研究所(東京)の牧村和彦理事は「全国的に都市部では電話でタクシーが捕まりにくく、アプリ優先の状況だ」と話す。アプリの方が隙間時間なく客を獲得できる上、配車部門のオペレーターの人件費を削減できるためとみる。

 アプリは「タクシー事業の生き残りに不可欠」とする声もあった。ニシキタクシーの竹内所長は「若い人ほど、空車の時間が少ない効率的な働き方を望む。アプリは運転手募集のアピール材料になる」と話す。ひいては高齢者の移動手段の確保にもつながるという。

 アプリ普及の流れの中、ニーズの根強い電話予約にどう対応するか、苦慮する会社もあった。各社が「うちはアプリ優先」「電話も歓迎です」などとはっきり方針を示した方が、結果的には利用者にとって分かりやすく、親切なのではないか。

© 株式会社中国新聞社