『バッドボーイズ RIDE OR DIE』にみた映画のマジック “バカになれ!”精神で新風吹き込む

「バカになれ!」。伝説のプロレスラー、故アントニオ猪木はそう言った。とことんバカになって、恥をかけるだけかいたとき、初めて本当の自分が見えてくる、と。その通りだと私も思う。周りに何と思われようが、意図的にバカになることで見える境地は必ずある。まぁ、猪木の場合はバカになったせいで、会社や後輩レスラーたちが大変な目にあったのだが、それはさておき『バッドボーイズ RIDE OR DIE』(2024年)である。これが「バカになれ!」の猪木マインドで、シリーズに新風を吹き込んだ傑作だった。以下、ネタバレがあるので、未見の方はできればここから先は読まずに劇場へ向かってほしい。

このシリーズの歴史は長い。マイアミで愉快なヴァイオレンス刑事ライフを送る2人組、心優しく常識人のマーカス(マーティン・ローレンス)と、超クールで銃を撃つのが大好きなマイク(ウィル・スミス)が、悪党を痛快にやっつける大人気シリーズだ。監督のマイケル・ベイが自腹で用意した本物のドル紙幣を爆破炎上させた『バッドボーイズ』(1995年)に始まり、マイアミ警察がキューバで戦争する狂気の超大作と化した『バッドボーイズ2バッド』(2003年)を経て、『バッドボーイズ フォー・ライフ』(2020年)で復活。監督はベイやんから、ベルギー出身の新鋭アディル・エル・アルビ&ビラル・ファラーのコンビへ変わった。ちょうど『ミッション:インポッシブル』シリーズが、トム・クルーズの一人大暴れからチーム戦へシフトチェンジしたように、『バッドボーイズ フォー・ライフ』では2人と同等に周囲の若手警察たちが大活躍。程よいバランスの現代的なアクション映画として、シリーズの再起動を成功させた。堅実な映画という印象だったのだが……冒頭に書いた通り、今回はバカになったのである。

まずオープニングから映画はハイテンションだ。マイケル・ベイの闘魂継承とばかりに、カメラが、人が、とにかく何かがひたすら動き回る。おまけにマイアミ感を出すために、画面に映るすべてがギラギラと輝いている。いい意味で画面がやかましい。そして遂に映画は、驚くべき一線を超える。なんとマーカスが急に死ぬのだ。マイクの結婚式中に心臓発作で倒れたマーカスは、あの世へ行って前作で死んだ署長と再会する(ここの妙に“それっぽい”スピリチュアル描写が心憎い)。そして署長(※幽霊です)に予言めいたことを告げられると、マーカスは生き返った。無事にこの世に戻ったマーカスは、とりあえずビルの屋上で局部を露出するなどの奇行に出る。こうして臨死体験を経て完全にアッパーな状態になったマーカスだが、一方のマイクは結婚したことでヤキが回ってしまう(※ヤキが回る……激しく生きてきた人間が、その激しい人生ゆえに精神的にもろくなってしまうこと)。生まれて初めて守るべきものを持ったマイクは、自慢の銃がちゃんと撃てなくなってしまうのだ。アッパーなマーカスと、ダウナーなマイク。これがなかなか新鮮だ。それでいて息はピッタリで、さすが安心安定の名コンビである。

もちろん、前作でブチ上げたチーム感も忘れない。巨大な陰謀に巻き込まれていく2人をサポートする若手組も、すでに前作でキャラ紹介は済んでいるので、みんなのびのびと暴れてくれる。また、前作で登場したマイクの息子も見逃せない。今回のキーパーソンとして物語に登場し、彼の存在によって人間ドラマがグッと深くなっているのだ。クライマックスの決着も含め、人間ドラマとしても続きが気になるようになっている。これは嬉しい誤算と言っていいだろう。とりあえず今は『5』が楽しみで仕方がない。

そしてもちろん、アクションも抜群にいい。特にクライマックスの楽しさたるや。主人公らが最終決戦の舞台に向かう途中で「え~、敵は潰れたワニ園を拠点に使っていて、そこには全長4~5メートルの巨大な白ワニがいます」と言い出したとき、内心で私は「よし、勝った」と思った。映画は勝ち負けではないが、「勝った」と思わざるを得なかった。そして、いざ銃撃戦が始まると、ビックリドッキリなカメラワークが連発。その仕込みが全て上手くいっているかは別として、とにかく勢いがハンパではない。成功するかは関係ない。なんと思われてもいい。とにかく試せることは全部試してやる! そんな気持ちが伝わってくるようだ。まさに「バカになれ」の精神である。特に(これは観た人だけが分かる表現になって恐縮だが)「ほいよ」と言わんばかりに、マイクとマーカスが軽快にアレを避けるシーンは拍手喝采したくなった。現実にはありえないのだが、映画の勢いに乗せられているせいで、「そういうこともできるよね」と思ってしまう。まさに映画のマジックだ。ちなみに、クライマックス前にアクションとギャグが見事に合体したシーンもある。ここは素直に爆笑してしまった。あのキャラを、まさかああいう形で活かすとは。監督は本当に『バッドボーイズ』が好きなのだろう。

エンディングの(天下のBlack Eyed Peasさんたちには失礼を承知で、あえてこう言いたい)激安ダンスナンバーも心地よく、すっきり爽快な気持ちで劇場を後にできる。これから夏の超大作祭りが始まるが、その入口に相応しい。観終わったあとは気持ちがマイアミになるので、夏に向けてテンションを上げたい方、必見である。脂の乗ったウナギの丼ぶりみたいな映画だと思ってほしい。医学的根拠はゼロだが、マイアミ的根拠によれば観ると元気が出る映画だと断言できる。

(文=加藤よしき)

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