ねえフジクラさん、先調子の『弾き系』が多い印象ですけど、元調子の『粘り系』を作るのは苦手ですか?【メーカー直撃!禁句なし】

1997年 スピーダー(初代)、2013年 モトーレ スピーダー(白スピーダー)、2014年 スピーダー エボリューション(青エボ)、2020年 スピーダー エボリューション 7(7代目)、2022年スピーダーNX グリーン

『スピーダー』という、いかにも高速で弾きそうなネーミングで知られるフジクラのカーボンシャフト。先が走ってシゴトをしてくれるかもしれないけれど、上手い人や男子プロが使っている印象は薄い。ぶっちゃけて教えてください。元調子タイプの“粘り系”って、あんまり得意じゃないですよね?

かつて海外のビッグネームが使って話題になった『初代スピーダー』を皮切りに、7代目まで続いた『スピーダーエボリューション』シリーズや『ブラック』まで登場した『スピーダーNX』シリーズなど、「フジクラといえば先調子の弾き系」というイメージが先行している。一方で、男子プロが好むような元調子の粘り系シャフトは影が薄い。フジクラのツアー担当・飯田浩治氏はこう話す。

「『ランバックス』や『スピーダー』のシリーズは女子ツアーでかなり支持されましたし、『エボ』や『NX』シリーズを供給してからは使用率がより高まっています。ただし男子ツアーでは、ウチのシャフトは苦戦していました。その状況を打開するために、2016年から『スピーダー TR』(中元調子)というシャフトの開発がスタートして、日本の男子ツアーへ投入することに。率直に言えば、そこで元調子の粘り系に本腰を入れて向き合いました。当初は男子ツアーでヒアリングすると、メーカー側の想定とプロのニーズに若干のズレがあったのも事実です。それでも、(2021年当時)『TR』は男子ツアーでモデル別の使用率1位を獲るようになりました」(以下、飯田氏)

やはり元調子の粘り系では後れを取っていたことは否めない。その意味で『TR』が頼みの綱だったのか?

「いえいえ、世界ランクのトップであり屈指のロングヒッターでもあるダスティン・ジョンソンは、フジクラの愛用者で『スピーダー エボリューション TS』という中元調子のシャフトを長く使っていました(現在は『スピーダー661ツアースペック』を使用)。実は以前から、フジクラのシャフトはPGAツアーでも一定数のユーザーがいて、使用率1位(メーカー別)になる試合がときどきありました」

ランク上位の大物プロがあまりいなかった印象があるが?

「そうです。そこで、PGAツアーのトッププレーヤーのニーズに応えるシャフトを目指して、アメリカのフジクラが開発した元調子系のモデルが『ベンタス』です。19年にPGAツアーで供給をスタートしてから、トップランカーの使用プロがどんどん増えました。ここ数年はPGA、JGTOツアーでの使用率はほとんどの試合で1位を取っています。モデル別の使用率でも『ベンタス』が上位を占めています(24年PGAツアーで『ベンタス』が1位、JGTOツアーでも『ベンタス』が1位を記録)」

プロにとってシャフトは“腕代わり”のようなもの。そうカンタンに新しいブランドやモデルに乗り換えられないのではないか。

「満足できる結果やフィーリングが得られたから替えたのでしょう。たとえば、(2021年当時)ローリー・マキロイは『ベンタス ブラック』の6Xをテストしたところ、ヘッドスピードとボール初速が上がったのでスイッチしました。それまでのシャフトは70g台でしたが『ベンタス ブラック』に替えて60g台の“軽・硬”に。2024年現在でも『ベンタスブラック6X』を使用しています。その他にも、多くのトッププレーヤーが『ベンタス』を選んだし、アメリカの男・女・シニアのツアーで使用プロが同時優勝しました。『ベンタス』が世界のトップランカーたちに認められたことで“フジクラは元調子の粘り系シャフトを作るのが不得手”というイメージを覆せたのではないでしょうか」
 
強じんなフィジカルを武器にするモンスターたちが振りちぎるシャフトというと“棒”の印象しかない。『ベンタス』もやっぱり“棒”なのか? だとしたら、あえてこのシャフトに替えたのはナゼか? フジクラのシャフト開発部門のリーダーを担う、古川義仁氏はこう答える。

「PGAツアーで通用するシャフトを求めて、アメリカのフジクラが開発した『ベンタス』は『ここまで硬くするの?』と驚くぐらい、動きが少ないシャフトです。そういうコントロール性や叩けるフィーリングがあった上で『ボール初速が上がる』『球のバラつきが少ない』という優位性があるので、世界のトップランカーたちが使いました。先調子=弾き系のように、シャフトがビュンと走って球を飛ばしてくれるタイプではありません。高速スイングで生まれた大きなエネルギーを効率よくボールに伝えて飛ばせる、パワーヒッターがより強く・速く振りにいける、といったアドバンテージがあります。プレーヤーのポテンシャルを引き出すシャフトと言えるでしょう」

これまでにフジクラが手がけた、元調子=粘り系シャフトのノウハウを生かした、というと聞こえはいいが売り文句でしかないのでは? この問いかけに対しては、フジクラの営業部門のリーダーであり“市場のニーズ”“ユーザーの声”に接する、若林雅貴氏が単刀直入に述べる。

「これまでのノウハウは全く生かしていません。ネーミングも含めて、日本で作った『スピーダー』というブランドとは全く別モノの“フジクラらしくないシャフト”が『ベンタス』だからです。『スピーダー』の弾き・走りを求めるこれまでのユーザーとはまた違う層で、PGAツアーで使用率1位を獲ったり世界のトップランカーが気に入ったハードなシャフトが打ちたい、という人たちから評価されています。アスリートやパワーヒッターといった、今までフジクラのシャフトを敬遠しがちだった人たちにも興味を抱いてもらい、使いたい・欲しいと思ってもらえるシャフトが『ベンタス』なんです」
 
『ベンタス』を使うプロがボール初速を上げたのは、やっぱりシャフト全体がガチガチだったからでは?

「ポイントは先端です。シャフト先端の曲げ剛性が高い(変形しにくい)ので、パワーをムダなく伝達してボール初速を最大化します。と同時に、打点がバラついてもヘッドがネジれにくく球が散らばりません。これは超高弾性(70t)カーボンと高弾性カーボンを用いたマルチバイアス構造の『ベロコア テクノロジー』による効果です。シャフトの特性としては、元調子系で先がしっかりしているので、スピンが少なくて吹き上がらず球が左に行きづらい。だから叩きにいけます」(以下、古川氏)
 
同じシリーズの“兄弟モデル”だが、その違いを知りたい。

「先端の剛性が高いのは、どちらも同じです。『ブラック』は手元の剛性を抑えた元調子ですが、全体的に硬くて振動数も高い、フジクラの中で最もハードなシャフトに。一方の『ブルー』は、中間から手元の剛性を抑えた中元調子で、『ブラック』に比べればその辺りがしなるフィーリングはあります。どちらが合うかは“好み”にもよりますが、スイングテンポや切り返しがゆったりめな人は『ブルー』のほうが、トップからインパクトまで一気に振ってくる人は『ブラック』のほうが、相性がいいのではないでしょうか」
 
プロには好まれてもアマチュアは手に負えない、となりそうだが。

「そういうわけではありません。たとえば『ブルー』は、切り返しで“タメ”が作れない人でも、手元側がしなってシャフトが“タメ”を作ってくれます。とくに『ブラック』はハードヒッター向けなぶん、動きが少なくて暴れません。スイング中にヘッドがどこにあるか分かりやすいし、意図したところにヘッドが戻ってミートしやすいでしょう」
 
世界のトップランカーのリクエストに応えたシャフトならば、50g台はアンダースペックな気がする。

「日本の一般市場のニーズに合わせて、50g台からラインナップしました。以前は“カスタムといえば6S”が王道でしたが、ここ何年かで50g台の需要が増えています」

よく耳にするのは、同じシャフトでも重量帯によって動きや特性が変わりやすい、ということだ。
 
「50g台の軽めだからといって、他の重量帯と性能やフィーリングが変わりないモノが作れました。『スピーダーNX』シリーズでは40g台から70g台まで幅広くラインナップしています。そういう実績とノウハウがあるので、重量帯が違っても“同じシリーズ”として特性がそろっているということ。今はカーボンの材料が良くなって、軽くてもしっかりした仕上がりにできるようになったことも大きいですね」
 
世界最高峰のツアーで『ベンタス』というハードなシャフトがNo.1になったが、その対極と言える、世界最軽量の“29.5g”を達成した『ゼロ スピーダー』(16年)というモデルもフジクラは手がけている。新しいコンセプトの意欲作を春にリリースするのが同社のサイクルだ。それにしても、そんなにギリギリを攻めるモノ作りのマインドが知りたい。

「軽量シャフトのカテゴリーはメーカーの技術力が最も出るところであり、フジクラの強みなので“他社に負けられない”という思いで開発しました。というのも、ウチは01年にどこよりも早く30g台の『スピーダー 351』を出していましたが、そこから“最軽量”で他社と抜きつ抜かれつをして、ついに『ゼロ スピーダー』で30gを切りました。シャフトの肉厚は0.3ミリちょいの極薄。一般的なシャフトの肉厚は60g台で1ミリ弱なので、どれだけ薄いか分かっていただけると思います」
 
だからといって、軽ければいいというものではないだろう。

「もちろんです。ヘッドスピードが速い人が打ってもシャフトが折れないよう、耐久性にマージンを持たせて作りました。超軽量だからといって、打つ人のヘッドスピードを限定しなかったからです。軽くてヘッドスピードが上がりやすいけれど、頼りなさはなくてしっかり振れる、という性能が出せました。しかも、同じモノを量産しなければならない。フジクラの技術力を結集したシャフトと言って差し支えありません」
 
19年の春に、短尺用の『スピーダー SLK』 が出た。短尺だからミートしやすいのならば、普通のシャフトを短くすればいいのでは? そんなギモンには“現場の声”を直に拾う、前出の若林氏が答えた。

「一般的なシャフトを短くして組むと、バランスがC5とかC6など軽くなってしまいます。『SLK』シリーズはカーボンにメタル(金属管)をコンポジットして、先端の剛性を高くせず先重心にしました。それによって、一般的なシャフトより1インチ短くても、バランスがしっかり出るし振り心地が変わりません。ただ短くしたのではなくて“その先”まで見据えたシャフトなんです。実際のところ、予想よりも幅広い人たちに受け入れていただきました」
 
ちなみに、モデル名の「K」は“古川のK”と、もっぱらのウワサだ。その古川氏は以下に続ける。

「ドライバーがどうしてもまとまらなかったり当たらないのならば、短くしたらイケるかな、というシンプルな発想で手がけたシャフトが『SLK』シリーズです。超軽量の『ゼロ スピーダー』とともに、われわれ技術・開発サイドが“こういうシャフトがあったらイイよね、ゴルフがもっと楽しくなりそうだな”という思いがスタートにありました」
 
巷では、カーボンシャフトの進化はもう頭打ち、なんてディスる人もいるがホントはどうなのか?

「ここ10年で、材料や設計は劇的に進化しました。材料が良くなったことで、今までできなかった設計ができるようにもなっています。『プラチナム スピーダー』で言えば、9年前に30g台は出せませんでした。しかし、カーボンシートなどの質が向上して強度が出せたので、30g台もラインナップできたんです。ウチの強みは材料の制限がないこと。いろいろな素材メーカーから材料を自由に調達できることも、シャフトの開発に役立っています」
 
シャフトというパーツはそもそもどんな役割があるのだろう? 改めて、ツアー担当の飯田氏に聞いた。

「その人なりのベストなインパクトを迎えるために、ヘッドを正しい軌道に導く役割があると思います。シャフトが弾道に影響を与えることももちろんありますが、より重要なことは“当たるまでのプロセス”であり、振りやすさやタイミングの取りやすさじゃないでしょうか。正しくインパクトすることで、ヘッドとボールの性能が生かせます。適正なスペックを選ぶことによって、ヘッドスピードが上がるというのもシャフトの役割でしょう。フジクラのシャフトの中には、そのように満足して使ってもらえる1本が必ずあります。それだけの性能を備えているし、ラインナップをそろえているということ。『ベンタス』ができて、足りなかったピースが埋まりました」

ボールを“飛ばしてくれる”弾き系をリードしたフジクラが、自分で“飛ばしにいける”粘り系で世界のトップに認められた。シャフトのグローバルな覇権争いは、これからさらにヒートアップするに違いない。

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