向後桃、ミスティコから教わったプランチャ「飛んだ時の景色を初めて知りました」メキシコCMLLでの思い出

6月28日(金)新木場1stRINGで行われるCMLL×レディースリング×メキシコ観光の「ルチャフェス♯2」でCMLL所属のアマポーラと対戦するスターダムの向後桃。向後は2021年10月CMLLへ初遠征。この月に開催された第1回女子版グランプリ大会の日本代表選手として、藤本つかさ、春輝つくしとともに参戦を果たした。この一戦を前に、改めて向後自身にメキシコ遠征の様子を振り返ってもらった。

※メキシコで知人からもらったメキシコ国旗カラーのブレスレッドを巻いての向後桃。写真:泉井弘之介

--向後さんは2021年10月に、メキシコ遠征をおこなったわけですが、まずはそれ以前はメキシコに対してどんなイメージを持ってましたか。

向後 最初はルチャの本場ということと、いつかは行ってみたいという国と言う感じですかね。あとはマスクマン!日本のプロレスは大きい人が多くて、メキシコはマスクマンで筋肉っていうイメージでした。

--そう、遠い国だと思っていたメキシコへ2021年10月に行くこととなったわけですが、いきなり1戦目からアレナメヒコでの試合となりました。それについて、どう思いになりましたか。

向後 まず、試合の前の日に、オフィスを回らせていただいたんですけど、その時にアレナメヒコの中も回らせていただいて、その広さにびっくりしました。

――アレナメヒコの中にCMLLの事務所がありますからね。

向後 空港に着いた時も、CMLLのお迎えのバンがあることにもすごいと思ったし、全て私が初めて見るものばかりでした。まず、オフィスに行くまでこんなに歩くっていうくらい歩きました。もうアレナメヒコの中が、一つの完成された場所と言うか。オフィスがあって、リングがあって、練習場、トレーニング場があって、医務室があって、そこで完結できるくらい全部がそこにあって。それに加えて、こんなおっきなプロレス施設があるんだってそれにまず…びっくりしましたね。私が今まで試合をした中では、アレナメヒコが一番大きな会場でした。

©CMLL/Alexis Salazar

--そうやって、実際にアレナメヒコで試合をするよりも先に現地へ訪れたことで、メキシコデビュー戦は楽になったんじゃないですか。

向後 いや、逆に緊張しましたね(笑)。こんなおっきいところでするのって(笑)。それまで、画像で見ていて、大きいこともすごい人数が収容できるってことも知ってたけど、実際に歩いたら、一つの小さな町というくらい、すごい大きな場所じゃんってワクワクしました。

――向後さんはこの時点で、どれくらいのキャリアだったんですか。

向後 2021年に遠征だからこの時点で2年半くらいですね。だからすごい緊張しました。

――そんな中、アレナメヒコの超満員のなかで、第1戦を迎えました。なかでも印象的だったのが、マイクアピールで向後さんが「ハポン、ヌメロ、ウノ!(日本が一番!)」と叫んで、大ブーイングを浴びたことでした。あの大観衆の中でのブーイングはある意味、貴重な体験でしたね。

向後 もう、大ブーイングでしたね。でも、それも含めて、第1戦は最高でした。試合もそうだし、お客さんの声援もすごいだけでなく、めっちゃ指笛とかならしていたりしていて、一体感を感じられて、すごく楽しかったです。

――ちょうど、グランプリ開催前だからメキシコのファンからすれば、国対国の対抗意識があったのかもしれないですね。

向後 はい、私もそう思っていました。でも、1戦目だけはブーイングでしたけど、2戦目からは声援でそれもびっくりしました。この「ヌメロ・ウノ」のせいですね(笑)。正直、この時は知ってる言葉がなかったので…知ってる言葉を言っただけで、ブーイングになりました(笑)。

――この後、グランプリを前にして、出場者が入場式で着るユニフォーム(ジャンパー)を事務所でいただきましたが、それを着て、いよいよ意識が高まってきた感じでしたか。

向後 もう、あれはめちゃくちゃうれしかったです。ジャンパーの後ろにCMLLってどーんって入ってて、これを私が着るんだって。グランプリの一員というよりも…CMLLに上がるんだっていうことを実感しました。日本へ持って帰ってからは、凱旋試合で着る機会はあったんですけど、今でも大事に我が家のクローゼットにあります。

写真:泉井弘之介

――さらに、もう一つ開催前の出来事としては、現地メディアから多数の取材がありました。それもまた、グランプリという大会がいかに注目されていたかを実感できましたね。

向後 いや、本当に取材がすごかったですね。いまはスターダムに移籍して取材が多くなりましたけど、あの時、全然そんなこともなかったので、取材一つでヘンな汗が出てきました。取材も一つ二つだけでなくいっぱいあって。うれしいのと「ワーッ!」っていうのとが混じった気持ちでした。でも、注目されることはうれしかったですね。

――新聞社にもTV局にも行きましたし、雑誌社はZOOMで何社からもインタビューを受けました。

向後 それだけ充実してましたね。もう毎日、つねに試合しているか、練習参加しているか、取材受けているか、移動しているかのどれかで。

ーーこうしてようやく本番を迎えるわけでが、改めてグランプリ大会のスケール感はどうでしたか。

向後 いや、本当にすごかったです。最初のセレモニーで軍隊の方々が出てきて、国歌を演奏していて。そこからもう、国を挙げてのイベントだなって思いながら見ていました。

――実際にグランプリの試合内容で覚えていることと言えばどんなことでしょうか。

向後 もう、メキシコ軍の殺気がすごかった。最初からボッコボコにされました。そう言っている今、鳥肌立ちました。

※第1回グランプリでは他国籍軍の日本代表で参加。7人のメンバーに選ばれる。©CMLL/Alexis Salazar
――それだけ、今でも強烈な思いとして残っているんですね。

向後 はい、めっちゃ気合入ってました。殺らなきゃ殺られるって、そういう世界だなって思いました。それはグランプリの前の試合からムードが高まっていて、エグい逆エビ食らって、顔面ラリアット食らって、本当に殺気がすごいなと思っていました。

――前哨戦から激しかったんですね。では、グランプリで印象的だった選手は?

向後 ダーク・シルエタは優勝しただけに特に印象が残っていますね。私がシルエタに負けたからかもしれないですけど。あとは味方だけど、すごいなと思ったのはステファニー・バッケル、アビスパ・ドラダ。でも世界からいろんな選手が集まった中で戦えたことが楽しかったし、光栄でした。

※グランプリではダーク・シルエタに敗れるも、後半まで残り続けた。©CMLL/Alexis Salazar

――そして、グランプリが終わった後の気分はどうでした?

向後 安ど感が半端なかったです。メキシコ滞在中の2週間くらい、ずっとアドレナリンが出ていたと思うんですよ。それだけに安ど感がすごくて。だって、それまで何をしていても出ていたんですよね。シウダレラ(お土産市場)で買い物している時でさえ(笑)。どこかで明日、試合だという意識があったんだと思います。シウダレラで買い物している時に覚えているのは、メキシコデビューの次の日に行ったら、試合を見てくれたいた人がたくさん声をかけてくれたんです。めちゃくちゃうれしかったんですけど、それだけにやっぱこれだけの人が見ているんだっていうことを感じました。それに、この時点では、まだアレナメヒコでまだ何戦か残っていたし、ほかにいろんな場所で試合をするのもわかっていたので、買い物をしていてもどこか体の一部が試合モードというか(笑)。

――アレナメヒコ以外もいろんなCMLLの常設会場で試合をしましたが、特に印象に残っている場所は?

向後 私は(アレナプエブラのある)プエブラという町が好きでした。とにかく町がかわいくて、カラフルで。それに「天使の町」というフレーズだから、あちこちにモニュメントがありました。ほかにも協会がたくさん町中にあって、散策したり、地元料理のセミータというおっきいパンも美味しかったです。

※アレナプエブラ

――ほかのメキシコの食べ物はどうでした。

向後 どれもすごくおいしかったです。グアダラハラでの試合前にみんなで行ったレストランも美味しかったし、試合後に行った外のレストランで食べたタコスも…。あとは、ルチャドールの人の家に招待してもらった家庭料理、どれもおいしいものばかりでした。

写真:泉井弘之介

――ルチャドールの選手たちとも多数交流がありましたね。なんといってもミスティコ選手の経営するカリスティコジムへ行って指導してもらったのは大きな財産になりましたね。

向後 すごくよかったですけど、もっといたかったです。自分のなかでは一瞬って感じるくらい時間が足りなかったです。

――2時間くらい滞在していましたけど、それこそあっという間だったんですね。

向後 はい、あとは、もっとガッツリ通いたいと思いましたね。最初、ジムに着いた時に子供たちがリングで遊んでいたんですけど、それがまたすごかったです。もうライオンサルトとか普通にやってて(笑)。失敗してリングにぶっ刺さってる子もいましたけど、全然大丈夫で。すごいな、これがルチャの国かと。それに、それぞれみんな役割があったんですよ。僕はこういう選手になりたいって。選手だけじゃなくて、僕はレフェリーになるんだっていう子もいて、それもすごくかわいくて。選手になりたい希望の子たちが遊びながらプロレスして、レフェリー希望の子が遊びながらカウントするという(笑)。

――ミスティコにプランチャを指導してもらって、最初は躊躇していましたが、最終的にはできるようになりましたね。実際、初めて飛んだ時の気持ちはいかがでしたか。

向後 プランチャで飛んだ時の景色を初めて知りました。「こんなに高いんだ」とか思いましたけど、アドレラリンもめっちゃ出てて飛ぶことができました。メキシコって飛ぶことも含めてのルチャじゃないですか。そのイメージがあるので、私は嬉しかったです。

写真:泉井弘之介

――ミスティコさんの教えはどうでしたか。

向後 言葉は通じなかったんですけど、すごく的確に教えてくれました。プランチャだけでなくいろいろ教わりました。私はスワンダイブするんですけど、ロープの乗り方も教えてくれて、すごく身になる練習になりましたね。あと、やったことないことばかりだったから、練習というよりもチャレンジって感じでした。あと、最後に2ショットも撮らせていただいて、インスタにも載せさせていただきました。あれは宝です(笑)。

――教えてもらった直後の、メキシコでの大会でプランチャをさっそく披露しましたね。

向後 もう最高でした。ミスティコさんに教えてもらったすぐ後の大会で、初めて飛べたことも嬉しかったですし、その場所がメキシコというのが最高でした。

――ボラドールジュニア選手はいつもデプレダトーレスのメンバーと合同練習を行っているのですが、こちらの合同練習に参加したのもメキシコでしかできない経験でしたね。

向後 あれはハードでしたね。それと、ボラドールさん、めっちゃ怖かったです(笑)。アップでセントーンをする場面があって、当たり前のようにしなきゃいけなんですけど、でもしたことないから「できないできない」って言ってたら、「できないじゃない、やるんだ!」って(笑)。私たち日本人はみんなセントーン使わない人たちばかりだったから、全員で「できないできない」って言ってたんですけど、「できないじゃない、やるんだ!」って返されてやりました。全部そんな感じでしたね(笑)。あと、アップで、サードロープの間をくぐって前転、セカンドロープの間飛んで前転、トップロープを超えて前転みたいなのをやってたんですけど、トップ越えの前転ってそんなのやったことないじゃないですか(笑)。私これらの飛んで前転で入るやつ、全部リングに刺さってました(笑)。で、一人目の私がささったから、他の2人は(藤本つかさ、春輝つくし)「お前たちやらなくていい」って言われていました(笑)。かなりスパルタでした。でも練習は「こわっ」と思ったけど、面白かったです。

――他にはウルティモゲレーロさんのハンバーガー屋さんにも行きましたね。

向後 お会いする前はすっごい怖い人のイメージだったんですよ(笑)。でもよく考えれば…これとか(両手を上下にするゲレーロのポーズ)、リングでお茶目なところいっぱい出てるよなって思って(笑)。声援がないと帰ろうとするところとか(笑)。

――マスクかぶって出てきて試合して、途中で脱いだりとか(笑)。

向後 そうそうそう(笑)。実際会ってみると、やっぱりお茶目でフレンドリーで、こんなこというアレですけど、かわいらしい人だなって思いました。ゲレーロさんにはお家に招待してくださって、ごはんもすごくおいしかったですし、家族みんな子どもたちもかわいくて、すごくいい思い出をいただきました。

――その時会ったTABATA選手は少し前にデビューして2月には日本にも来日しました。

向後 あー!そうですよね。私TABATAさんとSNS繋がっているんです。お家に行ったときに、なんか「フォローして」って言われて、繋がっています。いつか試合したいですね。

――ルチャドールとの出会い以外では、いろいろな場所にも行きましたけど、テオティワカン遺跡(ピラミッド)にも行ったのも思い出深そうですね。

向後 ピラミッドすごかったですー。私、人生初ピラミッドだったので、すごく興奮しました。古墳は見たことあるんですけど(笑)。

――全くの別物です(笑)。

向後 あの時は、コロナで上れなかったじゃないですか。だから、ぜひもう一回行って今度は上りたいですね。その帰りに本物の洞窟の中にあるレストランにも行きましたね。それも楽しかったです。端っこにろうそくが置かれて、階段あって、ろうそくあって、ちょっと上られるところもあって。あと、コスチュームで撮影できてよかったなって。それほど素敵な場所でした。

――グアダラハラというメキシコ第二の都市では、テキーラの生産が盛んで、テキーラ畑にも行きました。

向後 それも楽しかったです。こうやってテキーラっててきるんだなって。テキーラのお味もすごかったです。カーッって感じで、強かったですね。しぼりたてだからですかね。あとはテキーラの身をつぶすのも体験できて、それも楽しかったです。

※広大なテキーラ畑にも訪問し、テキーラつくりの体験も。

――メキシコの町全体にはどんな光景に見えましたか。

向後 町はとても可愛くて、それだけでなく、ルチャがあふれていて、それが素敵でした。駅のキヨスクみたいなところにもマスクが売られていたのも衝撃的でした。それに私たちが一面になっている新聞もキヨスクで買いました。ルチャが生活の一部というのも町であふれていて、素敵すぎる街だなって。あとホテルの近くのサンドイッチ屋さんがセットで飲み物まで付いていて、すごく安かったんですよね。そういうお気に入りの店を探すのも楽しかった。

――この遠征をきっかけにルチャ好きにもなったそうですね。

向後 めちゃめちゃ好きになりました。やっぱり、CMLLの選手に興味がわきましたね。練習を一緒にして、SNS交換したりしたこともあって、帰国してからも会った選手はチェックしてましたし、会っていなかった選手でも、この人のこれいいなって思ったら、フォローしてみるようになりました。向こうは、インスタのストーリーで動画の切り取りを挙げている人が多いからそれを見るのが楽しみです。

――CMLLといえば、毎年恒例の「FANTASTICA MANIA」という大会がりありますが、これもやはりチェックしていますか。

向後 もちろんです! 練習着は今年の「FANTASTICAMANIA」で買ったTシャツを着ています(笑)。毎年、新日本ワールドで見てますし、今年は後楽園2回と幕張にも行きました。

――CMLLにはたくさんの選手がいますが、そのなかで、特にお気に入りの選手は?

向後 え-、(少し考えながら)いっぱいいるんですけど、ミスティコさん、マスカラ・ドラダ、エチセロ、ソベラーノ・ジュニア…本当、たくさんいます。

――これだけCMLLへ愛着がわく中で、6月28日、新木場大会ではアマポーラ戦が決まっています。メキシコでも対戦経験がありますが、最後にこの一戦の意気込みを聞かせてください。

向後 メキシコでは何回かやりましたけど、その時の印象はデカイ、重い(笑)。でも当時は、
歯が立たず、アマポーラは大きいし、上手いし、でした。あれから2年半が経っているので、この期間の私の成長を見せたい。そしてアマポーラから必ず一本取りたい…丸め込みで取れるように、とにかく積極的に狙っていきたいですね。そして、この試合をきっかけにまたメキシコにも行きたいと思います!

「LUCYA FIESTA2 -ルチャフェス2-」
CMLL×LADYSRING×メキシコ観光
日時:6月28日19時開始
会場:新木場1stRING

▼第4試合 CMLL女子 VS スターダム対抗戦
アマポーラ VS 向後桃

インタビュアー:泉井弘之介

【動画】向後桃メキシコ遠征での勝利の瞬間

© 株式会社リアルクロス