エース不足が指摘されてきたスペイン代表を別次元に押し上げる「移民にルーツを持つ選手たち」。ヤマル&ニコ・ウィリアムスは多様化が進む“ラ・ロハ”の象徴

現在ドイツで開催中のEURO2024において、スペイン代表は“死の組”と言われるグループBで3連勝。1位での決勝トーナメント進出を決めた。

好調を維持するチームの中でもとりわけ注目されているのが、21歳のニコ・ウィリアムスと16歳のラミネ・ヤマルだ。このふたりには、ウイングというポジションに加え、移民の家系生まれという共通点がある。ニコ・ウィリアムスは父がガーナ人、母がリベリア人、ヤマルは父がモロッコ人で母は赤道ギニア出身だ。実際彼らのプレーには、アフリカ・サッカーの特徴である個人技や独特のリズムが随所に感じられる。

歴代のスペイン代表には、ボールスキルの高い選手が数多く存在する一方で、単独で試合を決められる分かりやすいエースが不足していると指摘されてきた。それでもパスサッカーを極限にまでチーム力に昇華させた“ティキタカ”の時代のスペインは、EURO2008、2010年ワールドカップ、EURO2012とメジャートーナメント3連覇をやってみせた。

しかし、そのチームの要であったシャビやアンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツらが引退すると、決め手に欠ける元の状態に戻ってしまった。今大会、縦に速いスペインのサッカーが注目を集めているのも、その推進力を支えるニコ・ウィリアムスとヤマルの存在があればこそである。
スペインでは1990年代から、ラ・リーガで活躍した外国人選手が帰化して代表でプレーするケースが増え始めた。マルコス・セナやジエゴ・コスタがその代表格で(ともにブラジル出身)、現代表でもエメリック・ラポルトとロビン・ル・ノルマンがそれに該当する。彼らはいずれもフランス出身の選手だ。

近年はその流れが加速しており、移民の二世、三世が代表でプレーするようになっている。その走りだったムニル・エル・ハッダディやアンス・ファティは定着できなかったが、その後、台頭したのがニコ・ウィリアムスとヤマルだ。

また、アトレティコ・マドリーが保有権を持ち、2023-2024シーズンはレンタル先のアラベスで活躍したサムエル・オモロディオン(20歳)もナイジェリアにルーツを持つ移民の子供。6月26日に発表されたパリ五輪に臨むスペイン代表の予備登録メンバーにも選出されており、将来は“ラ・ロハ”(スペイン代表の愛称)でCFを務めるだろうと期待されている。

今回のEUROでセンセーションを巻き起こすニコ・ウィリアムスとヤマルは、多様化が進むスペイン代表を象徴する存在だ。かつては、セスク・ファブレガスやシャビ・アロンソのように、選手が国外のリーグに飛び出し、そこで得た経験を代表チームに還元していたが、現在はそれに加え、移民にルーツを持つ選手たちがスペイン代表を別次元に押し上げている。

文●下村正幸

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