【社説】最低賃金 全国一律目標に底上げを

最低賃金引き上げの議論が今年も始まった。物価の上昇に負けない賃上げを実現するには、非正規を含め、働く人全てに適用される最低賃金の大幅引き上げが必要だ。

連合によると、今春闘の賃金改定率は昨年を上回る5%台だった。これに倣えば、最低賃金の全国平均時給の引き上げ幅が昨年度の43円を上回るのは当然だろう。

それだけでは不十分だ。東京と地方の時給の差は200円以上ある。格差是正にも本腰を入れなければならない。

最低賃金は毎年、中央審議会が都道府県ごとの引き上げ幅の目安を示し、それを参考に各都道府県の地方審議会が決定する。10月以降に順次適用される。

全国平均は昨年度に時給1004円となり、第2次安倍晋三政権が掲げた全国平均千円の目標を達成した。

岸田文雄首相は昨年夏、2030年代半ばまでに1500円とする新たな目標を示した。先日決定した骨太方針には、目標の早期達成に取り組むと同時に「地域間格差の是正を図る」と書き込んだ。すぐにでも抜本的な対策を講じてもらいたい。

最低賃金法は地域別の最低賃金について、労働者の生計費、賃金、企業の支払い能力の3要素を考慮して決めるよう定めている。

これまでは大企業が多いため賃金水準が高く生計費もかさむ東京と、賃金水準が比較的低くても生計費が安い地方では、最低賃金に差があるのが当然視されてきた。

その結果、14年度は地方の最低額が東京の76%にまで落ち込んだ。23年度も80%にとどまる。この格差は東京に人口が集中する一因だ。

昨年度の改定では、中央審議会が都道府県をランク分けして目安を示す現行制度の機能不全が明らかになった。

目安額は東京などAランクが41円、福岡などBランクが40円、福岡以外の九州6県を含むCランクは39円だった。

地方審議会では、Cランクの地域を中心に目安を大幅に上回る決定が続出した。九州は福岡が東京と同じ41円、他の6県は44~47円だった。深刻な人手不足を反映し、全国最下位を回避する心理が働いたためだ。

この逆転現象は、3要素で最低賃金を決めるルールの形骸化に他ならない。最低賃金の在り方そのものを見直すべきではないか。

英国やフランス、韓国など多くの国の最低賃金は全国一律だ。地域別に決めているのは国土が広大なカナダなど一部に限られる。日本が地域別にこだわる理由はない。

日弁連は4年前、全国一律の最低賃金制度の実施を求める意見書を政府などに提出した。同じ趣旨の意見書を可決した地方議会もある。

日弁連は一定の猶予期間に最低賃金を底上げし、賃金負担が増す中小企業への支援策を充実させる道筋を示す。検討に値する提言である。

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