日本ハム・郡司裕也選手HR“カメラ破壊”で注目 打球による物損や観客のケガ「選手は責任負わない」!?

観客席にボールが飛んでくる可能性はゼロではない(Yukou / PIXTA)

プロ野球・日本ハムの郡司裕也選手の活躍が止まらない。昨季途中、トレードで中日ドラゴンズから移籍した郡司選手は今季、ここまでキャリアハイの62試合に出場。打率.266、本塁打6本の成績を残している(6月26日時点)。

そんな郡司選手が先月15日にエスコンフィールドHOKKAIDOで行われた西武戦で放った本塁打が話題となっていた。

郡司選手の打ち放った打球は約30万円相当のカメラを直撃。ヒーローインタビューでお立ち台に立った郡司選手はビジョンに映し出されたカメラを見つつ「弁償しまーす」と謝罪し、ファンの笑いを誘っていた。

打球による“損害”責任は誰が負う?

報道によると、実際には郡司選手個人ではなく、球団(日本ハム)が修理費を支払うとのことだが、果たして法律に照らし合わせた場合、誰が責任を負うことになるのだろうか。

プロ野球観戦が趣味で、郡司選手のファンでもある小川達也弁護士は次のように答える。

「まずカメラが壊れたことについて、損害賠償を請求できるのはカメラの所有権者です。本件で壊れたカメラはブルペンカメラとのことですから、その所有権者は、球場を所有する株式会社(エスコンフィールドHOKKAIDOの場合は株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント)にあると思われます。そのため、この会社が損害賠償請求をする主体となると考えられます。

次に、郡司選手が損害賠償責任を負うかですが、結論としては負いません。

一般的に、郡司選手が負う可能性があるのは不法行為責任(民法709条)ですが、これが発生するためには『故意過失によって損害を発生させた』といえることが必要です。

本件で、郡司選手は北海道日本ハムファイターズとの選手契約に基づき、プロ野球選手としての業務を行い、ホームランを打ちました。

郡司選手はカメラを壊すため、カメラを狙ってホームランを打ったわけではなく、業務を全うしたにすぎず、不注意や落ち度があったとは言えません。したがって、故意過失は認められず、損害賠償責任も負わないということになります。また同様の理由から、球団にも不法行為責任は発生しません」

壊れたカメラの修理費を払うべき人は…

続いて、小川弁護士はカメラの修理費を誰が支払うのかについて、以下のように説明する。

「球団が加入している保険から支払われることが予想されます。

また、今回壊れてしまったカメラは、ホームランボールが飛んでくる可能性のある場所に設置されていました。このような場合、球場の所有会社も万一に備え、カメラに保険をかけていたことが予想され、こちらからも修理費が支払われる可能性があります」

では、同様の“事件”がもしアウェイ球場で起きていた場合はどうなるのだろうか。

「本件がアウェイ球場で起きていたとしても、基本的に上記と同様の結論になります。

選手に故意過失は認められないことから、選手は損害賠償責任を負いません。したがって、プロ野球選手が所属する球団、またはカメラを所有する球場の保険によって修理費用が支払われると思います」(同前)

ファウルボール直撃で損害賠償が認められたケースも

今回のケースではボールがカメラに直撃していたが、過去にはファウルボールが観客に接触し、裁判で争われた事例もある。被害者への損害賠償が認められるかは、状況によって判断がわかれているが、認められた事例としては、当時日本ハムのホーム球場だった札幌ドームでファウルボールが観客女性に直撃し、失明したケースが有名だ。この裁判では球団側に、被害女性へ約3357万円の損害賠償を支払うよう命じられている(札幌高裁 平成28年5月20日判決)。

小川弁護士は損害賠償が認められたポイントとして、札幌高裁が判決で「安全配慮義務を十分に尽くしていたとは認められない」と指摘したことを挙げる。では、球団や球場が「安全配慮義務を尽くした」とされるためには、どのような手段を講じる必要があるのだろうか。

「安全配慮義務を尽くしたかどうかは、次の2点によって判断されます。

①球団側がファウルボールが観客席に飛んでこないようネットやフェンスを設置していたか。設置していたとしても著しく低いといえないか。
②ファウルボールが飛んでくる危険性につき十分な説明を尽くしていたか。ボールが飛んできた際、警笛を鳴らし注意喚起していたか。

また、特に日頃からプロ野球を観戦しない人に対しては、より高度な注意喚起をする必要があります。

これらの注意を十分行っていなかった場合、信義則(民法1条2項)に付随して発生する観客への安全配慮義務を負っているにもかかわらず、この義務を尽くさなかったと判断されると、損害賠償責任を負うことになります」(小川弁護士)

実際、札幌ドームで失明する被害を受けた女性は、日本ハム側が小学生を招待するという企画に付き添いで来ていた保護者であり、野球観戦の経験や、野球に対する関心がほとんどなかった。

このことから、札幌高裁は判決で球団に対し「より一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていた」と指摘していた。

過度な安全対策は臨場感を損なうが…

球団・球場側に求められる安全設備や対策について、小川弁護士は以下のように話す。

「もっとも、プロ野球は非日常を楽しむスポーツイベントの性質を有しています。

ですので、あまりにも広範囲にネットを張り巡らせてしまうと、プロ野球が持つ臨場感、視認性が悪化し、最悪の場合は観客が減り、プロ野球の人気も低迷するおそれがあります。

そこで、安全設備や対策については、『社会通念上プロ野球の球場が通常有すべき安全性を有しているといえるか』を個別具体的に判断することになります。損害賠償責任を負うかも、このような基準によって判断されます」(小川弁護士)

日本ハムは現在パ・リーグ3位で、首位ソフトバンクを猛追している(6月26日時点)。熾烈(しれつ)なAクラス争い・優勝争いを戦うチームを応援するため、球場に足を運ぶ人も多いだろう。

「選手に故意はなくても、球場で応援する以上、観客席にボールが飛んでくる可能性はゼロではありません。観客側が主体的にできる対策として、観戦に行く際はファウルボールの危険性を十分に認識し、近くで警笛が聞こえたら打球が飛んでこないかどうかを十分に確認して、安全を確保するようにしてください」(同前)

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