早田ひな、12年前に芽生えた五輪への意識 エースとして挑む初舞台 パリ五輪開幕まで1か月

パリ五輪での活躍を誓う早田ひな(撮影・中村太一)

卓球女子の早田ひな(日本生命)=北九州市出身=は日本のエースとしてパリ五輪で金メダルを目指す。開幕直前に24歳となる早田にとって、今回が初の五輪出場となる。2021年東京大会の代表入りを逃したが、たゆまぬ努力に基づいた確かな実力で約2年に及んだ厳しい選考レースに圧勝した。パリでは世界最強の中国勢を倒し、シングルス、混合ダブルス、団体と出場する全種目でのメダル獲得が期待される。7月26日の開幕まであと1カ月―。(山田孝人)

「私の目標は五輪で金メダルを取って、これまで支えてくださったたくさんの皆さんに恩返しをして、喜んでもらうこと」。悲願の代表入りを決めた早田の胸中に去来したのは、喜びよりも周囲への思いやりだった。

同学年の伊藤美誠(スターツ)、平野美宇(木下グループ)とともに「黄金世代」と呼ばれ、幼少期から活躍した。一方で、東京大会で一足先に五輪のメダルを獲得した2人の背中を追う時期が長かったのも事実だ。

そんなキャリアについて、早田は常にこう言い切る。「私にとって2人は昔から雲の上の存在。それは今もそう。2人がいたから、今の私の立場がある」。人柄がそうさせるのだろう。選手として刺激を受けながらも、ライバルへの感謝を忘れたことは一度もない。

誠実な性格を基盤にこつこつと体を強化し、技術を積み上げた。167センチの長身を生かした強力なドライブを鍛え、巧みなサーブを起点とした多様な展開も磨いた。攻守両面で高レベルの万能選手としてパリの代表選考争いでは圧勝した。

今の早田が見据えるのは中国のエース孫穎莎だ。昨年は世界選手権のシングルスで銅、アジア大会では銀を獲得。他の中国勢を倒しての快挙だったが、孫には勝てなかった。「(五輪に向け)孫選手だけにフォーカスして、やっていくことは大事」と焦点を合わせる。

五輪代表に選ばれても海外への転戦は続いている。中国勢はもちろん、世界各国のライバルから研究される立場でもあるが「対策されても自分がさらに(向上する)と突き詰めていっている」と意に介さない。6月は国際大会で優勝したほか、パリで合宿を行い、現地の空気感も体感した。

12年前。当時12歳だった早田は競技を始めた北九州市の「石田卓球N+」の先輩でもある岸川聖也がロンドン五輪で戦う姿をテレビで見ながら大声で「一本」と叫んだ。五輪への意識が芽生えた瞬間から12年後。思いを結実させるためエースとしてパリの舞台に立つ。

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