『家じまい』の軌跡 「住み継ぐ」相手、子どもでなくても<しまい方のかたち・5完>

「その家の良さを評価してくれる人に渡すことが良い循環につながるのでは」と語る井形さん=長崎市役所

 長崎市出身の作家で英国情報誌編集長の井形慶子さん(64)=東京在住=に、両親の「家じまい」の軌跡をつづった自身の著書に込めた思いや、英国の家への考え方などを聞いた。

 -両親は長年暮らした高台の一軒家を手放し、商店街近くのマンションに住み替えた。「家じまい」をどう捉えるか。
 親の判断力があるうちに残りの人生をどう生きたいか、資産などを子どもにどう引き継ぎたいか確認する機会。私の両親は「最後まで2人で一緒にいたい」と思いが一致した。一方で父にとって誇りの象徴である家を手放すのはものすごく不本意だったが、管理の問題などがあった。親の視点と現実的な視点の二つを大事にした。

 -実家の処分を巡り、子の選択が必ずしも親の思いに沿わないこともあるが。
 親の願いを実現するため子どもが苦難の道を歩むのは親にとっても本意ではないはず。資産整理や引き継ぎにはエネルギーがいるので、互いが元気なうちに話すことが大事だと思う。

 -住み替える際、家財道具の取捨選択については。
 いつでも旅立てる家に住むというのを軸に考えた。日常使いするものだけを厳選する。ただ環境が激変するとストレスも大きい。リビングの配置に気を使い、テレビや家具はそのまま持って行き、配置を換えなかった。

 -住み慣れた家を手放す際に大切にした視点は。
 仲介した不動産業者が両親が大事にしていたダイニングテーブルを磨いて次に住む人に渡してくれた。英国では「住み継ぐ」ということがよくある。住み継ぐ相手は子どもでなくてもいい。その家の良さを評価してくれる人に渡すことが良い循環につながるのでは。

 -英国の家への考えは。
 英国では住宅投資で蓄えを増やし、家庭環境や年代で住み替える発想や価値観が根本にある。余生はスーツケース一つぐらいの荷物で、まちの小さな平屋で過ごす。遺言を書くのは紳士のたしなみとされ、定期的に書き換える。死ぬまでの道筋を自分たちで付けている。

 -著書の反響は。
 ノウハウ的なところが「役に立った」という感想や、家じまいの問題は親と対峙(たいじ)することになるので、「『自分でできるから何もせんでよか』と言われると、どうしたらいいでしょうか」という声が子ども世代から多く寄せられている。50代からの質問が実は一番多い。「まだ先は長い」と思っていても、あっという間に時期が来る。子どもが将来どうしたいかを考え、親の思いをうまく情報収集しながら、とっかかりを探しておいた方がいい。

 【略歴】いがた・けいこ 長崎市出身の作家で、英国情報誌「英国生活ミスター・パートナー」編集長。100回超の渡英経験から英国の暮らしにまつわる著書を多数出版し、ロンドンにも居を構える。2月に刊行した著書「最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理」(集英社)では、両親が長年暮らした一軒家の売却からマンションへの住み替えまで、親子で新たな暮らし方を目指す2年間の記録をつづった。

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