昭和の味がするバイク

 私事だが、当方の老いた父親は若い頃から機械いじりを好み、テレビが普及していなかった昔、部品を調達してテレビを手作りしたという。部品をバイクで運んだが、組み立てる時にその一部がない。なぜ気付かなかったのか、運搬中に落としたらしい▲そんな笑い話が身内に残るが、そのバイクはきっと、当時人気の「スーパーカブ」だろう。父の愛車だった▲ホンダが原動機付き自転車(ミニバイク)のうち、排気量50cc以下の生産を来年、終了するという。誕生から66年になる「スーパーカブ」シリーズの生産数は累計で1億台を超え、バイクとしては世界で最も売れた▲近年は電動アシスト自転車などに押され気味で、最盛期は200万台に迫った年間出荷数は10万台を割り込んだ。加えて、排ガス規制を強化する流れに適応するのが難しいという▲「乗る」だけではない。郵便や新聞の配達、おかもちを積んだ出前にも重宝したが、電動二輪車への切り替え、出前の減少と、「運ぶ」にも時代の波が及ぶ▲おそらく他社もあとに続き「50cc以下」はいずれ消滅するとみられる。ホンダの創業者、本田宗一郎さんが残した言葉に〈悲しみも、喜びも、感動も、落胆も常に素直に味わうことが大事だ〉とある。ミニバイクが運んだ風景は、昭和の懐かしい味がする。(徹)

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