【社説】裁判員制度15年 経験共有できる仕組みを

多様な市民の見識を司法に反映させるこの制度を、着実に成熟させたい。

殺人など重大事件の刑事裁判に市民が参加し、裁判官と共に有罪・無罪や量刑を決める裁判員制度が、導入されて15年たった。

太平洋戦争以前は米国のような陪審制度があった。戦中に停止されて以降、刑事司法システムの中で不在になった市民が、再び参加できるようになったのが2009年5月から始まった現行の裁判員制度である。

裁判官、検察官、弁護士の法曹三者は法律に従い罪の認定作業をするプロだ。一方で社会常識に疎い面があるとも指摘されてきた。

それを市民が補い、公平な裁判の実現を目指す。さまざまな人生経験を積んできた市民こそ、被告人の人生の背景にあるものを見極められると期待されよう。

これまで12万人以上の市民が審理に参加した。従来の調書中心ではなく、法廷での証言が重視され、刑事裁判は格段に国民に分かりやすくなった。確かな成果である。

課題も明白になってきた。 当初5割台だった辞退率は近年7割近くまで高まっている。参加者が時間に余裕のある人や裁判に関心が高い人ばかりに偏ると、幅広い市民の声を生かすという制度の趣旨が損なわれかねない。参加しやすい環境づくりが必要だ。

裁判員は無作為で選ばれ、原則辞退できない。病気の人や仕事で重要業務がある人らが例外的に認められる。

辞退者増加の背景に審理の長期化があるようだ。仕事への影響を懸念する人が多い。

平均審理期間は導入初年が4日程度だったのに対し、23年は15日ほどに延びた。丁寧な審理は当然だが、裁判所には参加者の負担が過度にならない工夫が求められる。

企業の協力も欠かせない。裁判員休暇を導入する企業は半数にとどまる。特に小規模の企業には浸透していない。

大学や高校にも理解を求めたい。成人年齢の引き下げで昨年初めて18、19歳が裁判員を務めた。制度の周知や、参加しても成績に影響しないよう配慮してほしい。

最高裁は辞退者増加の一因に、国民の関心が低下していることも挙げる。

最高裁の23年調査では、参加者の9割以上が良い経験だったと答えた。こうした意識を国民が分かち合えているとは言い難い。経験が広く共有されていないからだろう。

守秘義務が障害になっている。裁判員であることは公にできない。判決後の記者会見で感想は語れるが、評議の経過は口外できない。個人の特定につながる意見の内容や、有罪・無罪の意見数などを除き解除すべきではないか。

課題はあっても、より良い社会の実現のために意義ある制度だ。同じような事件を防ぐために何ができるか。参加者だけでなく広く市民が考えられる仕組みにしたい。

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