進化するスターダムにマッチメークの妙 ユニット超越や同門対決で注目カード続出!

【WEEKEND女子プロレス♯18】

<写真提供:スターダム>

今年2月に新体制になって以降、スターダムのリングに大きな変化が生まれている。基本のユニット闘争はそのままに、あらゆる角度から試合が組まれ、その効果が顕著に表れているのだ。

昨年12月に就任した岡田太郎社長が、プロデューサーも兼任。マッチメークで新しい試みに積極的にトライし、斬新なカードを次々と実現させているのである。

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たとえば、アジャコングやアイスリボンの藤本つかさなど、以前はあり得なかった選手たちに禁断の扉を開いた。また、それ以上に注目すべきなのが、複数の離脱者を忘れさせるような内部の変化と充実だ。

「社長に任命されて、会社組織の運営をしっかりやらなければいけない。そのうえでプロデューサーにもなり、最初はもうやるしかない状況でしたね」

<写真:新井宏>

そう話す岡田社長だが、根っからのプロレス好きが現場を任されることで活かされる。外部からの刺激を注入しながら、長い目で見た内部の底上げ。自身の嗜好に偏るのではなく、全体を俯瞰してのカード編成。選手数が多い団体だけに、大変な作業であることが想像できるが…。

「もっとも重視しているのが試合結果であり、選手たちの発言ですね。ゴールを決めてやるというよりは、選手たちが動いた結果によりその後のカードを組んでいくことを意識しています。ある選手がこの選手と闘いという発言や行動があったとしたら、そのアピールが実力や人気に沿っていれば、実現に向けて組んでいこうと考えます」(岡田社長)

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その方向性は、林下詩美、ジュリアのスターダムラストマッチとなった4・12後楽園から顕著になった。彼女たちに視線が集まる大会において、内容と結果でもっていったのが、羽南と飯田沙耶の生え抜き選手だったのだ。

2人はwing☆gori(ウインゴリ)というタッグチームを組んでおり、翌日の沼津大会で元ゴッデス・オブ・スターダム王者の中野たむ&なつぽい組から勝利する結果を出した。しかもラッキーな白星ではなく、説得力ある勝ち方だ。羽南&飯田の勢いはその後も継続し、5・28大阪でも前王者の鈴季すず&星来芽依組に快勝。若手ブランドのNEW BLOODタッグ王者でもありながら、葉月&コグマ組のゴッデス王座挑戦を決めたのである。

<写真提供:スターダム>

しかしながら、そのままタイトル戦に進んだわけではない。ここからが羽南と飯田には試練になった。6・8名古屋でコグマvs羽南、葉月vs飯田のシングル前哨戦。翌日の富山では羽南vs玖麗さやかと飯田vsさくらあやというNBタッグ前哨戦がシングルで組まれた。そして6・15静岡では、カードの入れ替えでコグマvs飯田、葉月vs羽南のゴッデス前哨戦が再び組まれたのだ。

前代未聞のダブル前哨戦シリーズ。羽南と飯田は挑戦者と王者の立場でシングルマッチをこなし、6・21竹芝でのNBタッグ防衛戦と6・22代々木でのゴッデス挑戦に向かったのである。このカードが組まれた意図とは? 岡田社長は言う。

「羽南選手、飯田選手は大化けする直前とみています。シングルにおいても結果を出し始め、NBタッグでは絶対王者感のある実力を備えていますよね。ただ、ゴッデスについてはまだ早いとの声もある。ふたつの立場があるなかで凝縮してやったらどんな作用が働くんだろうと思ってあててみました。さくら&玖麗との前哨戦を通じて、羽南&飯田には葉月&コグマの気持ちもわかったと思います」

<写真提供:スターダム>

結果、羽南&飯田はNBタッグを防衛し、ゴッデス戴冠はならなかった。立場としては変わらないが、彼女たちにとっては大きな経験となっただろう。代々木大会終了後、羽南&飯田に一連の闘いを振り返ってもらった。

「ずっとタイトルマッチをやってる気分でした。STARS同門で手の内を知ってるからこそやりづらい部分もあって、前哨戦を含めすごくアタマを使いましたね。そこにNBタッグもあって、ふたつのタイトル戦はそもそも作戦が変わってくるし、立場の違いからプレッシャーも大きかった。どちらかというと、NBを守る方がプレッシャーでした。前哨戦の連続から始まり、こんなに大変な2日間(タイトル2連戦)はなかったです(苦笑)。でも、このカードによって2人でプレッシャーを分け合い、お互いのチャレンジ精神を高めていけたと思います。自分たち、会社に試されているんだろうなとすごく感じました。今回、ゴッデスは取れなかったけど、乗り越えた意味では100点かなって(笑)」(羽南&飯田)

<写真:新井宏>

また、これらのカードはNBタッグに挑んださくら&玖麗にも試練だった。ベルトが懸かった試合とはいえ、ふたりはまだ自力未勝利。玖麗にはシングルでの白星があるが、反則勝ちという不本意なもの。そんなふたりがタイトルに挑んでいいものか。賛否あるのは当然だろう。それでもふたりはシングルでの前哨戦も含め果敢に挑んだ。結果、今回のNBタッグ戦は若手ブランド「NEW BLOOD」屈指の好勝負となったと言えるのではないか。さくら&玖麗の必死さが、NB本来のテーマを最大限に体現したからである。

「勝っていない状態での挑戦は不安でしたし、若手が揃ってるユニットってここしかないから選ばれたんだろうという感じがして、素直に喜べなかったです。でも、ふたりの初勝利で揃って初戴冠となれば過去に例がない結果になるので、みんなをぎゃふんと言わせてやろうと、ポジティブな気持ちで臨みました」(さくら&玖麗)

結果的にはこちらも敗れ、初勝利も初戴冠も持ち越しになった。が、最初から飛ばしに飛ばした勢いが衰えず、気持ちも折れなかった。これこそがさくら&玖麗にとって最大の収穫ではないか。今後の飛躍が期待できそうだ。

<写真提供:スターダム>

また、4・27横浜BUNTAIで大江戸隊を追放されたスターライト・キッドは、中野たむに勧誘され、岩谷麻優にも古巣復帰を促された。無所属となったキッドは以来、ユニットめぐりの旅に出る。全ユニットとのチームを結成したことで、興味深いカードが続出したのである。

「最初は無理やり中野選手と組ませたんですよね。でもキッド選手からは、『どうせならこの期間を楽しみたい』と伺いまして、じゃあいろいろなユニットと組ませてみようかなと思ってカードを決めていきました。また、キッド選手と組みたいと声を出す選手もいれば、出さないユニットもあるわけです。だったら声を出さないところと組ませたらどういう反応が起こるのかと思い、組んだカードもありますね」(岡田社長)

これにより、キッド絡みのあらゆる組み合わせが実現した。大江戸隊入りでヒールの適性が開花したキッドながら、全ユニットとのチーム結成から、あらためてさまざまな可能性が感じられた。見る方には新鮮で、キッド本人にもさまざまな発見があっただろう。さらには声を上げなかったユニットにも、いろいろな意味で気づきがあったに違いない。

<写真提供:スターダム>

ユニットを超越し、今後の道を模索していったキッド。ユニット超越と言えば、タイトルマッチの前哨戦でも通常の枠にとらわれないマッチメークが施されていた。近いところでは、6・22代々木に向け6・16大阪で組まれた舞華&葉月&コグマ組vsジーナ&羽南&飯田組の6人タッグマッチだ。これはワールド・オブ・スターダム王者・舞華とゴッデス王者の混成トリオが挑戦者と対戦する図式。ともに同門対決で、赤いベルトを争う舞華とジーナはE neXus V(イーネクサスヴィー)でアーティスト・オブ・スターダム(6人タッグ)王座も保持している。

それに遡る4・27横浜前の4・21大阪では、舞華&岩谷&安納サオリのシングル王者トリオが実現、舞華の赤に挑む渡辺桃、安納の白に初挑戦する羽南との前哨戦がユニットの枠を越えておこなわれた。

「ユニットでの闘いが基本にありますがプロレスは個人闘争でもあるので、こういうカードもありかと思います。守る側と取りにいく側、お互いに気持ちって一緒だと思うんですよ。横に並ぶことによって、たとえば王者側が『こっちのベルトの方があのベルトより上だ』というプライドを持って前哨戦を闘ってもらえれば、もっともっと新しい化学反応が生まれると思うんですよね。あと、もったいぶるのはやめようかなと思って。いまのサイクルの早いスポーツ界、エンタメ界でもったいぶっていたら旬を逃すような気がするんです。もちろん特別なときのために取っておく試合もありますけど、ウチは試合数が多いのもありますし、だったらいろいろ組んでいった方がいいと思うんですよね」(岡田社長)

<写真提供:スターダム>

6・22代々木では、刀羅ナツコ率いる大江戸隊がクイーンズクエストを事実上の解散に追い込んだ。独りとなった上谷沙弥、追放処分のAZM、妃南、レディ・C、天咲光由の去就はどうなるのか? そしてこの日、キッドはすず&星来とともに新ユニット結成の動き。選手の言動、結果に応じたカードがこれからも組まれていくだろう。本稿掲載日(6月28日)から新日本プロレスの子会社になるスターダム。今後のマッチメークからますます目が離せなくなりそうだ。

インタビュアー:新井宏

▼写真ギャラリー:ジーナとの同門対決直後の舞華、スターダムの新鋭さくらあや&玖麗さやか(写真:新井宏)

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