【大阪・難波発】対談の最初から驚いたのは、彼女たちの声量と声質だ。艷やかで響きがあって、とにかく“通る”。ミモザの花はつぼみをつけてから開花まで半年を要するという。通る声は、ミモザのごとく長い時間をかけ、基礎練習に耐えて獲得した賜物なのだろう。入団の際、総合演出を務める広井王子氏からは「普通の青春を味わおうとしてはダメだ」と言われたというが、「いろんなことを乗り越えて、ここで頑張っているのが、私たちの青春です」と、3人は輝くように笑った。
(本紙主幹・奥田芳恵)
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楽曲に対してまず取り組むのは
自分たち自身で理解をすること
芳恵
取材の始めから思っていたんですが、皆さん、声がものすごく通りますね。
ちば
ありがとうございます。基礎レッスンのおかげです(笑)。
芳恵
そういえば、今夏に公演があるんですよね。
いわむら
はい。2024年の夏公演です。
芳恵
どんな内容なんですか。
いわむら
「ジャングル・レビュー~Living~」というタイトルで、2幕構成。1幕はジャングルが舞台で、私たちが扮するフラミンゴや黒豹、猿などさまざまな動物とハンターによる「生きる」ことがテーマの舞台です。2幕は昭和歌謡などもあるミュージックバラエティショウです。
芳恵
皆さんも出演されるんでしょ?
ちば
はい。全員出ます。私たち1期生4人だけで歌う楽曲もあります。
芳恵
公演に向けて今はどんなことに取り組んでいらっしゃるんですか。
いわむら
今日も振り入れ(ダンスで曲に合わせて振り付けをつけていくこと)をしているところです。今はメンバーがそれぞれ自分の役割を理解する期間で、少しずつ歌や曲が完成していくという段階です。
すずき
今回はテーマがジャングル。人間ではないものを演じるので、今まで以上に難易度が高くて。きちんと役柄を自分の中に落とし込んでいきたいです。
芳恵
楽曲をもらった時、理解するのが難しい曲もあるのでは?
いわむら
恋愛ソングとかもあるんですが、そんなに経験がないので(笑)、映画を観て登場人物に感情移入してみたり。
ちば
メンバー各自で歌詞を読んだり曲を聴いたりして、自分たちなりの表現の仕方をつかんで、それを総合演出の広井王子さんの前で観ていただいたりして。
いわむら
「それ、違うな」って言われることもありますけど(笑)。まずは自分たちで考えることが勉強だと思っています。
すずき
楽曲によっては、メインで歌っている団員に対して広井さんの想いを感じる時もあって、それが私たちにもわかるんです。「ああ、こんなふうに私たちを見ているんだな」って。
芳恵
そうか。そうやってどんどん理解を深めていくんですね。
ちば
ミモザーヌの公演は夏と冬で、その間はまた基礎練習に戻るんです。だから、公演に向けて動き出した今こそが、本当にワクワクする期間です。
芳恵
ワクワクするといえば、入団されてうれしかったことを一つ教えていただけますか。
いわむら
10代の今、生きていく上で大切なことを教えてもらえる環境に巡り会えたことでしょうか。人としての基礎を教えていただいていると実感しています。
芳恵
人としての基礎…。たとえば、どんな?
いわむら
挨拶をきちんとするとか、決まっているルールに対しても常に疑問を持つとか。
芳恵
“常に疑問を持つこと”について、どう理解していますか?
いわむら
たとえば校則。ルールだからと押し付けられてる部分に疑問を抱く。うーん。どう言えばいいかな。
ちば
えーと。日常生活の中で疑問を持つことで、自分の意志を持ったり考えたりする時間ができることが大事。そしてそれを自分の意見として、誰かに伝える軸を持つことも大事ということじゃないかな。
いわむら
そうそう。それだ! ありがとう!
日舞・フラメンコ・ジャズ…
それぞれの道を目指して
芳恵
では、ちばさんがうれしかったことは?
ちば
私はコロナ禍が終わった後の舞台での感動です。何度も延期されたり、配信だけだったので。幕が上がった時は身体中に震えがきて鳥肌が立ちました。あれは一生忘れないと思います。
芳恵
すごい経験をされましたねえ。
すずき
私は自分に自信が持てた瞬間と、自分の成長を実感できた時が本当にうれしくて。
芳恵
それまでは自分に自信がなかったんですか。
すずき
はい。私、外見がちょっと違うので浮いてしまうところがあって…。そこをみんなに合わせないといけないのがしんどくて、何となく負のオーラをまとっていた時期があったんです。
芳恵
どんなふうに克服を?
すずき
無理にみんなに合わせるのではなくて、自分にしかない良さを探そうと思って。レッスンや舞台だけでなくふだんのふるまいや会話についても、何が違うのか、自分の良さはどこなのか、こっそり一人で探し続けて。
芳恵
かなりしんどかったんじゃないですか。
すずき
いや、それが何だか楽しくなってきて(笑)。そうしているうちにだんだん認められるようになって、自信がついてきて、「ああ、私の居場所が見つかった」と、ホッとしました。
芳恵
それは“見つかった”のではなくて、すずきさんが居場所を“創り上げた”んですよ、きっと。
すずき
(顔を輝かせながら)ありがとうございます!
芳恵
皆さんは第1期生ということで、いわむらさんとすずきさんが19歳。ちばさんが18歳。これから先をどんなふうに考えていらっしゃいますか。
いわむら
在団中に取り組みたいのは日本舞踊です。入団してから出会ったんですが、いつかソロでお客様に観ていただきたい。将来的にはお芝居で活躍していきたいと思っていて、もっとお客様の感情を動かして、その方の人生に影響を与えるほどのお芝居を届けたいです。
芳恵
お芝居で目指している人はいますか?
いわむら
安藤サクラさん。『万引き家族』を観て、「この方みたいなお芝居がしたい」と思いました。
ちば
私はフラメンコに出会えたことがうれしい。フラメンコが持つ音の分厚さや独特のリズム感、身体の使い方にすごく魅力を感じていて、もっといろいろな方に観ていただきたい。舞台で率先してパフォーマンスできたらと思っています。
芳恵
舞台以外ではどうでしょう?
ちば
個人でグラビアをやらせてもらっているんですが、それはミモザーヌでのレッスンや経験があってこそ。だから今も卒団してからも、いつか恩返しをしたいと思っています。
芳恵
すてきな思いですね。すずきさんの今後は?
すずき
私はアーティストになって、ソロで活動したいと思っています。自分の本当の姿を音楽に乗せて、人に楽しんでいただけるパフォーマンスがしたい。
芳恵
すずきさんは音楽で表現していくのですね。
すずき
はい。今一番集中しているのがジャズなんですが、将来的には“ジャズ+α”のような、今までにないエンターテインメントを創り出していきたいです。
芳恵
それぞれの先が楽しみです。夏公演、絶対観にいきますね!
一同
ありがとうございます!!
こぼれ話
10代の女性が千人回峰の紙面を飾るのは、初めてのことだ。少女歌劇団ミモザーヌの登場に、少し驚いた読者もおられるかもしれない。千人回峰は、経営責任を背負ったリーダーや、一芸を極める方々などから、人生の転機についてお伺いしてきた。その中で、哲学や行動の根源に迫り、人を深掘りしてきた。彼女たちもまた、人生における大きな選択をして、青春のすべてをかけて芸を極めている。取材する前にミモザーヌのコンセプトや舞台に上がるまでの道のりを聞いた。そして、「彼女たちは深掘りできる」と確信してオファーをしたのである。
彼女たちと話してとても驚いたのは、自分の考えをしっかり言語化できるということだ。自分の気持ちや行動の意味を理解し、そして相手に理解させることができる。言語化能力を高めるためには、観察する力、考える力、語彙力、要約する力などさまざまな能力が必要といわれている。ミモザーヌでは、物事を観察し、何かに気づき、それを表現に生かすことを求められていたり、映画など優れた作品に多く触れたり、自分の気持ちを日記に書き表す習慣がある。これら日々の活動の中で、言語化能力が育成されてきたものと感じる。言語化能力は結果として高まったのかもしれないが、舞台人としての総合力が高まっている証拠だと思う。それもすべて、全力で取り組んでいるからこそ身につくものだ。今のすべてをかけて頑張れるものを見つけた人は強い。学生なら勉強や部活動などがわかりやすいが、仕事でも恋愛でも何でもよいと思っている。頑張った先に得られるものがあることを知っているかどうかは、その後の人生に大きな影響を及ぼすと感じている。
実は、千人回峰の対談にあたり、彼女たちは想定問答集をつくって一生懸命練習をしてきたのだそう。うまく答えられるか不安だったそうだが、彼女たちよりもスタッフがより心配していたのではないかと推察した。不安は杞憂に終わった。一つの質問の答えに対して、「どうして?」とさらに問いかけても、彼女たちはしっかりと個々の意見を述べてくれた。それは、決して予行演習の成果ではない。彼女たちのありのままが、極められているということだと思う。
8月に夏公演を控えるミモザーヌ。それぞれが、どんな色の花を咲かせ、輝きを放つのか。期待をもってあと少し待つことにしよう。ただいま特訓中。(奥田芳恵)
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心に響く人生の匠たち
「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
<1000分の第352回(下)>