なぜ強豪クロアチアはあっけなく敗退したのか。攻守で露呈した限界と“黄金世代”以降の伸び悩み【コラム】

あまりにあっけない、そして不甲斐ない敗退だった。

クロアチアは2018年のロシア・ワールドカップで準優勝の後、EURO2020ではラウンド16でスペインに敗れたものの、1年半前のカタールW杯で3位、その後昨年のUEFAネーションズリーグでも準優勝(敗れた相手はまたもスペイン)と、近年の国際トーナメントでは常に主役を演じてきた。

しかし今大会では、初戦でスペインに0-3の完敗を喫すると、続くアルバニア戦でも明らかな格下相手に先制を許し、一度は逆転に成功したものの、後半アディショナルタイムに同点ゴールを許して2-2のドロー。そして、勝利以外にベスト16進出の可能性がなくなった最後のイタリア戦でも、後半の立ち上がりに先制しながら、やはりATに同点ゴールを喫して引き分け止まりに終わり、勝点2(3得点6失点)という不本意な成績で3位敗退が決まった。

敗退の原因を探るとすれば、何よりもまずピッチ上のパフォーマンスが求められるレベルに達していなかった、というシンプルな事実に尽きる。

戦術的な観点から見ると、攻撃では、中盤のクオリティを活かしてポゼッションは確立できるものの、ファイナルサード攻略ではクロス以外に有効な攻め手がなく、しかも作り出した決定機をゴールに結びつける決定力を欠いていたこと。守備では、プレスの強度が低いためにリトリートしての受動的なセットディフェンスに頼らざるを得ず、最終ラインも連携に乏しくミスが目立ったことが指摘できる。

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3試合で3得点の攻撃に関しては、情状酌量の余地もないわけではない。ルカ・モドリッチ、マルセロ・ブロゾビッチ、マテオ・コバチッチというトップクラスのMF陣を中核とするポゼッションは安定しており、スペイン戦を含めて3試合とも、大半の時間帯でボールを支配し主導権を握って戦っていた。

作り出した決定機の数も、決して少なくはなかった。3試合通算のゴール期待値XG(PK含む)は6.55で、フランス、スペイン、ドイツを上回って出場国中トップ。ただ、スペイン戦とイタリア戦で得た2つのPKをブルーノ・ペトコビッチ、モドリッチが決め損ねたのをはじめ、ゴール前でGKと1対1となるヘディングの決定機(スペイン戦、アルバニア戦で計4回あった)もすべて外すなど、明らかな「決定力不足」が致命傷になった。6点分以上のチャンスを作り出していながら3点しか奪えなかったのだ。

その決定機も、PKを除くとコーナーキックとクロスによるものがほとんどで、敵最終ラインを攻略してのクリーンな決定機は全くと言っていいほど作れなかった。全体的にプレーリズムがスローで、相手を押し込んだ後に攻撃を加速して一気にフィニッシュに持ち込む1対1のドリブル突破やコンビネーションといったレパートリーに欠けている点は、明らかな限界だった。これまでその限界を補ってきたモドリッチの閃きも、残念ながら今大会では見ることができなかった。

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プレーリズムの遅さ=インテンシティの低さという弱点は、3試合で6失点を喫した守備にも反映されていた。最もきつかったのは、攻撃時に陣形が間延びしがちなため、ボールを失った時にカウンタープレスがかかりにくく、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)に問題を抱えていたこと。ロングボールのこぼれ球を拾われたところからカウンターを喫し、アルバロ・モラタに裏抜けを許したスペイン戦の1点目はその象徴だ。

自陣にリトリートしてのセットディフェンスも堅固とはいえなかった。データを見ても、被シュート数38(1試合平均12.7)、被枠内シュート数15は、いずれも参加国中下から1/4に入る悪い数字。最終ラインはボールに意識が向いてスペースを疎かにすることが多く、中央(CB間)にギャップが生まれてそこを狙われることが多かった。アルバニア戦の2失点はいずれも、そのギャップを埋めるべきMF(1点目はブロゾビッチ、2点目はモドリッチ)の戻りが遅れたのが致命傷になっている。

総合的に言えるのは、クロアチアのサッカーは攻守ともにリズムがスローでインテンシティが低く、そのペースに相手を巻き込むことができる時はいいが、逆にハイペースの展開を強いられると後手後手に回って綻びが生まれるということ。インテンシティとプレースピードが速いモダンなサッカー(今大会ならスペイン、ドイツ、スイス、オーストリアなど)に、やや置いてけぼりを喰らっている感もある。

その一端は、世代交代の遅れとその背景にあるタレント不足に求めることができるかもしれない。ロシアW杯準優勝をピークとする「黄金世代」は、マリオ・マンジュキッチ、イバン。ラキティッチ、デヤン・ロブレンらが去り、モドリッチ、イバン・ペリシッチも35歳を過ぎて衰えが隠せない。

しかし、ブロゾビッチ、コバチッチ、アンドレイ・クラマリッチという90年代後半生まれ、現在30歳前後の世代を最後に、欧州のトップクラブで主力として活躍できるレベルのタレントは生まれていない(唯一の例外はヨシュコ・グバルディオル)。

ロブロ・マイエル、ヨシップ・シュタロといった20代半ばの中堅世代が伸び悩んでいる(この2人は今大会の大きな失望だった)現在、バルティン・バトゥリナ、ルカ・スチッチら00年代生まれの新世代に命運を託し、思い切った世代交代に踏み切る時期がやってきたのかもしれない

文●片野道郎

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