「ドドドドド!稲妻が走って、風が吹いて・さんぶたろうが暴れに暴れて…」地元に受け継がれてきた民話を次世代へ伝える取り組み【岡山・奈義町】

「一九七一 なぎの昔話」は、奈義地域に古くから伝わる昔話をまとめたもので、半世紀以上も前に出版された本です。

半世紀以上前の物語に子どもたちが夢中でひきこまれる

この本をきっかけに、現在、奈義町では受け継がれてきた民話を次の世代に伝えていこうという取り組みが行われています。

「ドドドドド!稲妻が走って、風が吹いて、大雨が降って、なぁ、さんぶたろうが暴れに暴れて、あぁー、助けてくれ、その時の大きな息が今では時々、広戸風になって吹いてくるんじゃな」

子どもたちが夢中になって、聞いているのは、奈義地域に古くから伝わる民話「さんぶたろう」

奈義の地を収める領主と美しい娘に化けた大蛇との間に生まれた大男の伝説です。

披露しているのは、「なぎ昔話語りの会」の代表、入澤知子さんです。

入澤さんは町に伝わる民話を地元の子供たちに伝えていこうと、2007年に「なぎ昔話語りの会」を立ち上げました。会では定期的にまちの子どもたちへの民話の読み聞かせに取り組んでいます。

入澤さんが奈義町に伝わる民話に興味を持ったのには、一人の医師の存在がありました。

50年以上前 奈義の民話をテープレコーダーで集めた医師がいた

(「なぎ昔話語りの会」代表 入澤知子さん)
「高村継夫先生がお医者さんで、お話を集めて残して下さった。今までのものを、これは今でないと残して行けれないという、郷土愛と先見の明と、お医者さんで体も心も時代も見てくれる人」

「一九七一 なぎの昔話」。
著者は、奈義町で長年医師をしていた高村継夫さんです。

この本は、高村さんが今から50年以上前、地域の人々を訪ね歩き地元で伝えられてきた約90の民話を、テープレコーダーで録音し、まとめたものです。

(インタ「なぎ昔話語りの会」代表 入澤知子さん)
「高村先生の文章の中に、自分はこうやって調べて残して来たが、この思いを誰かにいつか繋いでいってほしいっていう文章を残されているのにも出会って、そこで根付いてきた文化というか、そういうものをこれからの人たちにも、伝えていきたい」

高村さんの思いを受け継いだ「なぎ昔話語りの会」は、地域に伝わる民話やわらべ歌などを町の人たちに聞き取りました。そして、高村さんのまとめた本に自分たちが聞き取ったものを追加し、新たな著書を出版。著書に記された民話やわらべ歌など、その数は約500に上ります。

(「なぎ昔話語りの会」代表 入澤知子さん)
「昔話の中には、本当に生活の知恵とか子どもたちに知ってほしい人間らしさとか、そういうものが含まれているので、自然に人の生活の命の繋がりの中で、そういうのが身についていくといいなという思いも」

一方で、入澤さんたちとは別の方法で地域の民話を次の世代に残そうと取り組む人もいます。

「絵と文字で伝えたい」元中学校の美術教師・洋画家の思い

(花房徳夫さん)
「絵と文字で、全部僕です(僕が描きました)」

元中学校の美術教師・洋画家の花房徳夫さんです。

(花房徳夫さん)
「高村さんの「一九七一なぎの昔話」が書棚にあったんで「懐かしいな」と思ってちょっと開いたんです。50年後にちょうど見つけて、昔のことを高村先生集められとったなというのを思い出したものだから、ちょっと絵を付けてみたら面白いんじゃないかな、という感じで始めた」

医師の高村さんは、花房さんの祖父からも民話の聞き取りをしたということです。

(花房徳夫さん)
「うちのおじいさん、花房りょうたろうというんです、(話が)あるんです。これは花房りょうたろうさんから、って書いているんです」

高村さんは、なぜ地域に伝わる民話を本にまとめて残そうとしたのか…その理由が著書の中に記されていました。

(花房徳夫さん)
「なくなってしまうものを、こうして残す変なもんがおってもいいんじゃないかなって書かれとんですよね、物好きな人間がいてもいいんじゃないかなということを」

花房さんは、2021年から高村さんの本に書かれた民話に挿絵を描き始めました。

今では挿絵の数は300を超えました。花房さんは、描いた挿絵を自身のギャラリーで公開しています。

(花房徳夫さん)
「あれ、全部本を読め、と言われたら面倒くさいけど、ちょっと絵がついておけば気が向いたときに見る機会になるんじゃないかなというふうに思うんで、まあ、絵を描いてみるのも、そういう人がおってもいいんじゃないかな」

奈義の民話を「語り部」として伝える人たちも…

奈義町に残る民話を伝える取り組みは、若い世代へと受け継がれています。

「うまそうなそうなぼた餅を作っていた。うまそうじゃな、食いたいなぁ」

「ここに橋は架けられまい」
「ひばりは水を探しに、空を高く高く上っていく」

2021年に地元の小学生を中心に結成された「なぎっ子おはなし隊」です。この日は、小学4年生の子どもたちが、入澤さんたちと一緒に語り部の練習に取り組んでいました。子どもたちは、年に4回、公演を開催し、町の人たちに民話を披露しています。

(なぎっ子おはなし隊)
「舞台に立つのがかっこいいなと思って入りました」
「伝統の話とかを色々知りたいから」
「人前に立って昔話を語るのが楽しい」

人々の生活の中から生まれ、口伝えで語り継がれてきた民話やわらべ歌。入澤さんは「自然への畏敬の念」や「生活模様」など、当時の人々の思いを感じることができると言います。

(「なぎ昔話語りの会」代表 入澤知子さん)
「この那岐山の麓で繋がれてきた命っていうものとか、自然の偉大さというものを感じて、それをずっと繋げていってほしいな、広めていってほしいなと思っています」

先人たちが語り継いできた思いを次の世代へと繋いでいく。入澤さんたちはこれからも地元の子どもたちへ民話を伝えていきます。

【スタジオ】
民話には、色々な教訓が盛り込まれているということで、私たちも故郷で伝わる民話をいま一度見直してみたいですね。

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