珠洲にタクシー、スピード参入 バス・めだか交通「被災地の足に」

貸切バスの仕事をこなしながら、タクシー会社設立の準備を進める干場社長=能登町内

  ●業者一時ゼロに危機感

 能登半島地震で甚大な被害を受けた珠洲市で7月、タクシー会社が新たに発足する。唯一のタクシー事業者が地震の影響で一時営業を休止したため、貸切バス会社めだか交通(同市)が「地域のために」と手を挙げた。参入を許可する北陸信越運輸局も、通常は3カ月以上かかる審査を1カ月で済ませる異例のスピード対応で後押し。利用者は決して多くないものの、復興に向けて「被災地の足」を死守する。

 珠洲市では今年3月末までスズ交通がタクシーを走らせていた。しかし、コロナ禍と昨年5月の奥能登地震で需要が細る中、追い打ちをかけるように能登半島地震が発生し、経営難から営業を休止。高齢化率が5割を超える珠洲からタクシーが消えた。

 この状況に、めだか交通の干場龍一社長は危機感を募らせた。通院や買い物の足を持たない高齢者に加え、酒類を提供する飲食店からも「タクシーがないと不便だ」との声を聞いた。市内の病院関係者は「まだ路面が荒れた道もあり、医師が夜の急な呼び出しに応じるにはタクシーが欠かせない」と困っていたという。

  ●運輸局も後押し、審査3カ月→1カ月に

 地域の切実な願いを受け、干場社長はタクシー事業への参入を決断し、4月30日付で北陸信越運輸局にタクシーの営業を申請した。運輸局側も「被災地復興にはタクシー会社の営業が不可欠」(旅客課)として最優先で審査を行い、1カ月後の5月30日に許可を出した。

 めだか交通によると、7月下旬に営業を始める予定で、車両は県内のタクシー会社から譲り受ける予定の2台を使う。近く運転手の募集を開始するほか、珠洲市正院町正院に車庫を整備するという。

 干場社長は「客の数が少ない珠洲で、タクシー事業がもうかるとは思わない。しかし、必要とする声は多い。被災地を支え、赤字にならないよう経営したい」と語った。

  ●スズ交通、営業再開

 6月に入ってからは、営業を休止していたスズ交通のタクシーが営業を再開した。ジャンボタクシーを含めて7台あったタクシーは地震や津波の被害で2台が使用できなくなり、当面は2~3台が運行する。

 運転手もこなす同社の白木憲一専務は「営業休止中もタクシーの呼び出しがずっと続いていた。1人でも多くのお客さまの要望に応えたい」と話した。今後、営業を続けながら、他社への事業譲渡を目指すという。

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