【J1川崎、内容好転と連続引き分けという成長と課題の中で(1)】FWの使い方と使われ方。遠野大弥が「前に強い選手がいる」と語る良さと、山田の「起点になるだけじゃなくて」の課題

川崎フロンターレの山田新はその強さを存分に発揮した 撮影:中地拓也

ボールを素早く前線へつけて、相手ゴール前でコンビネーションを駆使しながら複数の選手が攻撃にからむ。川崎フロンターレに新たな形が生まれつつある。

ホームのUvanceとどろきスタジアムに、サンフレッチェ広島を迎えた29日のJ1第21節。23分に決まった先制ゴールには、実に延べ11人の選手が絡んでいた。

まずはDF佐々木旭が、自陣に侵入してきた広島のボランチ松本泰志を激しくチェック。こぼれ球をFWマルシーニョが敵陣にいるFW山田新につけた。縦パスが入った間に、左サイドのスペースを駆けあがっていった佐々木が言う。

「今日の左サイドは自分と新、マルちゃんの3枚で回そうと言っていたので」

山田からパスを受けた佐々木がクロスを入れる。標的はゴール中央に侵入してきた山田。これは合わなかったが、逆サイドからFW遠野大弥が折り返し、中央へ走り込んできたMF脇坂泰斗が一度は相手に止められながらも執念で折り返す。

広島のDF塩谷司がクリアするも、今度はDFファンウェルメスケルケン際がこぼれ球を拾う。クロスはまたもクリアされたが、川崎の波状攻撃は終わらない。

遠野がこぼれ球を頭で折り返し、脇坂がワンタッチで後方へ落とす。反応したボランチの瀬古樹が、左へもち出した直後に左足を一閃。強烈なミドルシュートはブロックしたMF東俊希に当たり、コースを変えて広島ゴールを急襲した。

■佐々木旭「攻撃の起点になる形は意識していました」

逆を突かれながら必死に体勢を立て直し、反応した日本代表GK大迫敬介も止めるのが精いっぱい。こぼれ球に真っ先に反応したマルシーニョが押し込んだ。

「左サイドにマルシーニョがいるので、自分が攻撃の起点になる形は意識していましたし、前半は特に起点になれたと思っている。マルシーニョと自分が仕掛ける速い攻撃で、相手に脅威を与えるのはチームとして認識していますけど…」

佐々木が松本をチェックしてから、マルシーニョが3試合連続の先制ゴールを決めるまで30秒あまり。その間に延べ11人もの選手が絡んだ怒涛の攻撃のスイッチを入れた山田は、放ったシュートが0本のまま62分に交代した自分を責めた。

「そこ(起点)から自分自身が、ゴール前でエネルギーを使うところまでは行けなかった。前の試合から中2日というのもあるけど、それでも自分が起点になるだけじゃなくて、ゴール前のところでもっと違いを見せなければいけなかった」

湘南ベルマーレとの前節でも、前線の右サイドのスペースへ素早く侵入して味方からの縦パスを受け、さらにゴールライン際で相手選手2人に挟まれながらもデュエルを制しした山田がマルシーニョのゴールをアシストしていた。

■遠野大弥「前に強い選手がいる」

広島戦の先制シーンでは、関わらなかったフィールドプレイヤーは高井幸大のジェジエウの両DFと、リスク管理で残っていたボランチの橘田健人の3人だけだった。アンカーを置く[4-3-3]から、ダブルボランチの[4-2-3-1]にシステムを変えて3試合目。攻撃面で生じているポジティブな変化を遠野もこう語る。

「前に強い選手がいるので、そこに当てて入っていくとか、潜っていく部分では必然的に距離が近くなる。そういったところを、みんなで共有できていると思う」

遠野が言及した「強い選手」とは、2戦連続で先発した山田に他ならない。J1復帰を果たした2005シーズン以来、実に19年ぶりに負け越してターンするなど、苦戦が続く川崎でようやく見えてきた光明が、桐蔭横浜大から加入して2年目の山田の1トップとしての責任感、そして貪欲な向上心に導かれる成長となる。

一方で時間の経過とともに、光を覆う今シーズンの課題も顔をのぞかせてきた。

(取材・文/藤江直人)

(後編へ続く)

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