【虎に翼】梅子(平岩紙)のおにぎりでやわらかな表情に変わるよね(土井志央梨)。素晴らしい小道具による伏線活用だった

「虎に翼」第65回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第13週「女房は掃きだめから拾え?」は、前作『ブギウギ』でヒロイン スズ子の終生のライバルであり、大歌手・淡谷のり子をモデルにした人気キャラ・茨田りつ子(菊地凛子)のサプライズ登場が世間の大きな話題を集めた。

作品当初から「梅丸少女梅劇団」というワードが出てきたり、家庭裁判所の存在をPRするためのイベント「愛のコンサート」の出演者を決める話の中に「福来スズ子」の名前が出てくるなど、時代性も含めて共通の世界観であることは指摘されていたが、これで完全に直結。過去には他作品のお店の看板などを登場させるファンサービス的演出も多々みられたが、登場人物がそのまま登場したのは朝ドラの長い歴史の中でも初めてのことではないだろうか。

木・金のりつ子登場のインパクトが強く、トータルで考えるとどこかイベント週的な感もある第13週だが、第13週は再登場した梅子(平岩紙)と、かつての夫の大庭家との遺産相続問題という問題に向き合うところから幕を開けている。

家庭裁判所を舞台に、新たに特例判事補として活躍する寅子のもとに現れた梅子と大庭家の面々。梅子の元夫の遺産をめぐり、義母の常(鷲尾真知子)と三人の息子、そして家庭を捨てて逃げることになる原因となった愛人・すみれ(武田梨奈)によるリーガル相続バトルは見応えあるものだった。

夫の遺言書に記載された、すべてを愛人に譲るという文言。遺言書の法的効力と真偽、それはほどなく偽造されたものであると判明するわけだが、今度は家族内での分け方で諍いが起きてしまう。妻の取り分と三人の息子の分割、挙句の果てには兄弟たちに相続放棄を迫る長男。まるで現代の相続トラブルを見ているかのような生々しさを突きつけられ、民法第730条「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」の意味を考えてしまう。

そんなやりとりの中に、戦後も新憲法や民法をしっかり頭の中に入れている梅子の様子が頼もしく、梅子が法を学ぶ原点もあらためて思い出されたとともに、久しぶりに法の世界を舞台にした作品ならではのワクワク感も感じられた。

「虎に翼」第62回より(C)NHK

泥沼と化す相続劇にピリオドを打ったのは、突如として発せられた、梅子の高笑いだった。まず、「この子だけは」と連れ出したほどに可愛がった三男・光三郎(本田響矢)が愛人・すみれと通じていたことが発覚、すみれがあれこれ策をめぐらせていたというまさかの展開に。これもまた、大庭家の財産狙いのためかもしれないが、今度はなつかしの昼ドラ的要素も盛り込まれてきた。

そして、前述の梅子の高笑い。目の前の現実はすべて馬鹿馬鹿しいものだった。梅子は大庭家を出てすべてから解放される決断をする。遺産も嫁としての立場も母としての立場もすべて放棄する。それですべては全く解決するわけではないが、このあとの相続は結局すっきりしたものではないことはどこかすっきりしない部分を残す。

ともあれ、長く続いた梅子の呪縛は解放され、ようやく寅子と梅子はかつてのように笑い合うことができた。

冒頭の「愛のコンサート」も大成功のうちに終了。ここで登場したのが、あの「梅子のおにぎり」だ。女子部時代、何度も寅子たちの心を潤してきた、あのおにぎりだ。そのおにぎりが、香淑(ヨンス)、よね(土居志央梨)の口にもそれぞれ運ばれる。戦争をはさみ、女子部の面々のその後の運命はバラバラになっていった。しかし、おにぎりを食べ、涙を流す香淑、少しやわらかな表情に変わるよねの姿に、いろいろなわだかまりが浄化されていくかのような、素晴らしい小道具による伏線活用だったのではないだろうか。

そしてもうひとつ。はる(石田ゆり子)の死後、ずっと一人で猪爪家の家事を支えつつも曇った顔、疲れた顔を見せて心配になっていた花江(森田望智)のことだ。道男(和田庵)との謎の仲の良さも息子たちも気がかりだったが、それを息子たちに話題にされたときに花江は大笑いする。不思議なことに道男と会うと、亡き夫・直道(上川周作)が夢に出てくるのだという。

「虎に翼」第65回より(C)NHK

花江もまた、梅子とは違う「解放」をのぞんだ。「手抜きをさせてください!」すべてをはるのように完璧にやろうと思ったが、自分には無理だったと。この正直な告白が、息子たちを含めた家族の距離をグッと縮めることになる。梅子も花江も、まったく違う内容ではあるが、これまでの「家庭」に縛られてきた環境から、もっと自由に生きていける女性という選択を教えてくれた。そして当面、あるいは近年まで長く続いた男性中心の社会の第一線でを女性が大手を振って歩いていくことで切り開く道を寅子がおそらくこの先見せてくれるはずだ。

とにかくいつも以上にエピソードと情報量が多く盛り込まれた週だったかもしれない。それゆえ、それぞれもう少し掘り下げられたのではという思いもなくはないが、ドロドロしたりギスギスしたりする内容も多かっただけに、りつ子の登場という「お祭り」感で視聴者を束の間驚きと歓迎ムードで包み込むことが必要だったのかもしれない。

さまざまな登場人物のわだかまりが解消され、ちょうど折り返し地点での節目らしい展開で幕を下ろした今週。後半戦のスタートだ。


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