元平和大使が手掛けた映画

 こぢんまりとした、温かな演奏会の光景が記憶に残る。9年前のこと、東京・井の頭恩賜公園の一角で、古くて傷だらけのピアノが奏でられると、「何だろう?」といった顔で近くにいる人たちが集まってきた▲広島で“被爆”したピアノの音を聞いたり、鍵盤に触ったりしてもらう催しだった。企画者の中心に、神奈川県出身の元高校生平和大使で、そのとき大学3年生の大川史織さんがいた▲音や手触りで何かを静かに感じ、想像してもらう。こんなやり方もあるんだと感じ入った覚えがある。それと似た思いを、おととい長崎市で上映されたドキュメンタリー映画に抱いた▲大川さんが製作した映画「タリナイ」は、かつて旧日本軍の勢力下にあった南太平洋のマーシャル諸島で撮られた。終戦を前にして島で亡くなった日本兵の息子が、慰霊のためにそこへ向かう。大川さんが同行し、カメラを回した▲自然も、流れる音楽も美しい映画は、静かに何かを感じさせ、想像させるようだった。上映後、鑑賞した人たちが感想を語る場があり、「静かな中に戦争への怒りを感じる」と言う人がいた▲上映会で大川さんは、高校生の頃の「署名活動あっての」映画だと、しみじみ語った。平和への小さな一歩-という思いで街頭に立った日が、今日につながっている。(徹)

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