衝撃「開門せず」 諌干最高裁決定(中)<三者三様> 司法解決か、協調路線か

諫早湾干拓事業の北部排水門=2018年、諫早市

 遠浅の諫早湾の中央付近に、四角いいかだが点々と浮かぶ。「全国どこの沿岸漁協も変化している。生きていくため、状況に合わせて工夫しなければいけない」。開門差し止め訴訟の原告の男性漁業者(70)は苦い表情を浮かべた。
 諫早市小長井町漁協は国営諫早湾干拓事業に翻弄(ほんろう)されてきた。開門の是非をめぐって組合員たちは対立。1997年の潮受け堤防閉め切り後、漁業不振の打開策として始めたのがカキ養殖だった。
 最高裁が26日付で「非開門」を決定し、男性漁業者は「仲間が二つに割れ、いさかいは続くかもしれないが、一応、決着はついた」。自らに言い聞かせるように言葉をつないだが、複雑な思いは今も消えない。同漁協は、有明海沿岸4県で成果を上げているという再生事業を軸に「非開門」の“現実路線”を歩む。
 小長井町と県境で接する佐賀県太良町。開門請求訴訟の原告、平方宣清さん(66)は最高裁決定を聞いた後、無心で網を手入れしていた。「かつてタイラギ漁は1シーズンで1千万円を超していた。今はカニやコハダなどを捕っているが、生活するだけで必死。開門して有明海を再生してほしいだけ」。失望と怒りをにじませ、今後も開門を求め続ける決意だ。
 かつて差し止め訴訟の原告団に加わったが、昨年、開門請求訴訟に転じた営農者もいる。諫早市のグリーンファームの男性代表(42)。農作物がカモに食い荒らされたとして損害賠償請求したのに続き、調整池がもたらす寒暖差が農業に影響を与えているとして開門請求にも踏み切った。営農開始から10年がたち、訴訟を通して農地整備の構造的問題を問いたいという。
 砂や貝殻が混じった土。農地下に埋まっている排水管は目詰まりを繰り返した。男性代表は、農地を管理する県農業振興公社に再三、改善を求めたが、担当者が代わるたびに「実現は遠のいた」と話す。
 干拓農地は、同公社が5年間の利用権を設定し、営農者に貸し出している。同社など2社は昨年度からの利用権設定を申請したが、書類不備を理由に却下された上、同公社は昨年3月、2社に土地の明け渡しを求める訴訟を起こした。
 男性代表はいう。「最高裁の『開門しない』決定は、私たちの訴訟の方向性と違う。農業ができる土地ではないという点と、問題に向き合おうとしない行政の姿勢を明らかにする狙いだから」。同公社は一昨年度から、農地の傾斜修正や排水管交換に着手。別の営農者は「遅すぎたが、営農者が一丸とならないと足元をみられる」と、どちらにも一線を画す。
 7キロの潮受け堤防を挟み、漁場も干拓農地も根深い問題を内包する。司法解決か、国などとの協調路線か-。それぞれの選択は“三者三様”だが、最高裁の「非開門」決定が、その声を消す“印籠”になることは誰も望んでいない。

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