2020長崎県内自治体の課題と展望(1) 長崎県 島原市 諫早市 松浦市 平戸市 大村市 南島原市 雲仙市 西海市 

◎長崎県/U・Iターン対策に重点
 県政浮揚に向けた政策の方向性を示す現行の県総合計画(5カ年)が最終年度を迎える。企業誘致に伴う雇用創出や県外からの移住者数の増加などは一定の成果が出ているものの、若者の県内就職率は低迷し、転出超過が進む。合計特殊出生率も伸び悩み、人口減少には歯止めがかかっていないのが現状だ。
 県はこれまでの総合戦略の取り組みを検証する中で、「企業誘致などによる雇用創出が人口減少改善に結びついていない」「女性の転出超過が拡大している」と課題を分析する。中村法道知事は昨年11月の定例県議会で「女性の県内就職促進に向けて就労支援を充実する」と強調。女性に特化した就職説明会や採用の働き掛け、福岡県を中心とした看護・保育などの学生のU・Iターン対策を重点戦略に掲げた。
 一方、県と佐世保市がハウステンボスへの誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)を巡っては、秋ごろに1事業者を選ぶ予定だが、交通アクセス強化やギャンブル依存症対策が課題となる。九州新幹線長崎ルートは、未着工の新鳥栖-武雄温泉の整備方針などに関し佐賀県との溝が埋まらない。国営諫早湾干拓事業や石木ダム建設事業では関連訴訟が続く。
 県政が直面するこうした重大な課題に、どう取り組み、改善や解決への道を切り開いていくか。間もなく3期目の折り返しを迎える中村知事の手腕が問われている。

◎島原市/防災意識の格差解消
 1990年11月の雲仙・普賢岳噴火から30年の節目の年。ハード面では、防災機能を強化した新市庁舎での業務が4月から順次始まる。「災害に強いまちづくり」を実現するためには、世代・地域間の防災意識の格差解消も不可欠。ソフト面での対策も、より一層求められる。
 普賢岳の山頂付近には依然、溶岩ドームが不安定な状態で堆積している。国土交通省雲仙復興事務所が93年から進めてきた崩落対策工事は新年度に完了予定で、翌年度以降の工事は白紙状態。大地震や大雨によるドーム崩壊への懸念が残る中、監視業務も担う同事務所の行く末に不安を募らせる市民は少なくない。
 市は杉谷-三会、三会-有明、有明地区内の3ルートに今春、コミュニティーバスを導入予定。公民館や商店がバス停に設定され、交通弱者の利便性が向上しそうだ。

◎諫早市/夢持てる町へ新段階
 宮本明雄市長はこの春から3期目の最終年。「50年に1度」と位置付けた複数の大型事業が姿を見せ始める。宮本市政が掲げる「次世代が夢と希望を感じられる町」の実現に向け、新しいステージに入る年になりそうだ。
 諫早駅東口に建設中の再開発ビル2棟のうち、交流広場やホテル、店舗などが入る1棟は12月に完成予定。二つの野球場などを備える(仮称)久山港スポーツ施設全体は春に完成。栄町の再開発ビルに入る(仮称)子ども・子育て総合センターも夏ごろから動きだす。
 国営諫早湾干拓事業の開門調査を巡る訴訟や、県央県南広域環境組合の新施設建設など懸案は残る。ソニーの新工場建設など民間の投資意欲を“追い風”に、雇用や人口増への期待が高まる一方、子育て環境や高齢者の生活支援などソフト面の充実が課題になりそうだ。

◎松浦市/再整備後の誘致推進
 1期目の折り返しとなる友田吉泰市長にとって、掲げる「友田ビジョン」の各施策の実現に向け、手腕が問われる1年になる。
 基幹産業の水産業では、松浦魚市場再整備事業が新年度末に終了する。今後は最新の設備や機能を生かし、水産加工関連施設の誘致や拡充に向けた調川港湾整備の推進などが課題。3年連続で発生した伊万里湾の赤潮についても国や県、隣の佐賀県と連携した対策が求められる。
 健康づくりや子育て、介護など福祉の拠点となる市民福祉総合プラザ(仮称)が3月末に完成。秋には地域の中核病院となる独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)「松浦中央病院」(仮称)が開院する。住みよいまちづくりに向けて、これらの施設をどう連携させ、市民の健康や福祉の向上につなげていくのかにも注目したい。

◎平戸市/歴史の町 発信力強化
 平戸が誇る歴史的資産を切り口に発信力を強化し、交流人口の拡大を目指す。
 5月、徳川家康の外交顧問を務めたウィリアム・アダムス(日本名・三浦按針)没後400年を記念した「ANJINサミット」が開かれる。大分県臼杵市など「按針」ゆかりの4市の首長や研究家らが功績を顕彰。平戸は「終焉(しゅうえん)の地」を歴史愛好家らにPRする。夏には平戸城懐柔櫓(かいじゅうやぐら)の宿泊施設化「城泊」も始まる。大名行列を取り入れた城主体験などで、海外富裕層の取り込みを狙う。
 基幹産業の観光は「世界遺産」やインバウンド効果で回復傾向だが、市民にその実感は薄い。中心商店街や中南部地区など、市内に観光客をまんべんなく回遊させる仕掛けが不可欠。3期目の折り返しを過ぎた黒田成彦市長が、具体策を示し、活性化に結び付けられるかが課題だ。

◎大村市/待機児童の解消に力
 新市庁舎の建設や九州新幹線長崎ルートを生かした地域づくり、V・ファーレン長崎の新練習拠点整備など、古里の将来を左右するような大型事業がめじろ押し。まちの姿が大きく変わろうとしている今、市民や議会を巻き込んだ議論が求められる。
 新市庁舎は、建設予定地の地質調査で支持層の一部が深くなっていることが分かり、基本設計の工期を本年度末まで延長。完成時期は当初の予定より遅れる見込みだ。事業費も概算の108億円より膨らむとの見方があり、基本設計の内容に注目が集まる。
 人口増が続いており、待機児童の解消にも力を注ぐ。市は4月には一定解消できるとの見通しを示しているが、どれだけきめ細やかに対応していけるかが課題。「オール大村」を掲げ、昨年10月に無投票再選を決めた園田裕史市長の手腕が問われる1年になりそうだ。

◎南島原市/移住者増 地域に活力
 第2期総合計画はこの春から3年目に入るが、人口減少に歯止めがかからない。新市誕生時に約5万6千人(2006年3月)だった人口は約4万5千人(19年11月)。この10年余りで1万人以上が減少した。
 島原半島の南端に位置し、中山間地域も多いことから、企業誘致はなかなか進まず、基幹産業の後継者不足も深刻化。だが農業は野菜を中心に県内有数の産出額を誇り、修学旅行生などが農林漁業を体験する民泊も年間1万人を超える。昨年の移住者は75人に上り、18年の13人から激増。地域の活力源にもなっている。
 整備中の口之津港ターミナルビルは3月20日に供用開始予定。島原鉄道跡地を軸とした「自転車歩行専用道路」の整備なども本格的に動きだす。こうしたハード整備や地域の魅力を課題解決にどう結び付けていくのか。市民の関心は高い。

◎雲仙市/子育て世代 定住促進
 子育て世代が暮らしやすいまちづくりを目指し、出会いから出産、育児までの15施策で構成する「子育て応援パッケージ」が好調だ。結婚奨励金などを呼び水に、昨年の婚姻数は前年比で1.3倍に増加。定住をさらに加速させるため、市内外へのアピール強化に力を注ぐ。
 観光分野では、昨年から始まった市観光戦略の策定作業が本格化する。雲仙温泉街を軸とした今後10年の方向性を決めるもので、ここで描く基本理念や行動計画が観光地の行く末を大きく左右する。既存の旅館や商店が持つ魅力に加え、いかに外資を呼び込んで活用するかが鍵を握る。
 定住促進も観光振興による交流人口拡大も、ともに時間を要する取り組みだけに持続性が不可欠。農漁業振興や企業誘致などと絡め、今まで以上に多角的な戦略が求められる年になる。

◎西海市/医療費助成 高校生も
 県が肥前大島港で取り組む埠頭(ふとう)整備は、新年度中の完成を目指して急ピッチで工事が進む。その近接地では、市が約12ヘクタールの海上を埋め立てる工事を進めており、完了後は工業団地を整備する予定。雇用創出の起爆剤として早期完成が期待されているが、一部に交通渋滞を懸念する声も出ている。
 昨年4月にスタートした市コミュニティ交通「さいかいスマイルワゴン」は軌道に乗り、新年度から四つの運行エリアを乗り継ぎ形式でつなぐ。過疎化が急速に進む中、さらなる利便性の向上で交通弱者の生活と社会参加を支援できるか。
 杉澤泰彦市長は昨年、小中学生を対象にしている医療費助成を高校生まで拡大する方針を表明。4月から始める方向で予算化に向けた準備に入った。農業分野では、西彼町白崎地区での果樹園を主体とした農地整備(16ヘクタール)が新年度中に完了予定。

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