離島の今

 ある人との会話で「離島振興」という言葉の意味が話題になったことがある。その人が言う。「島から離れることを推し進める。そんなふうに読めない?」。離島を「離れた島」じゃなくて「島を離れること」だとすれば、読めなくもないかな。そう答えた覚えがある▲いま現実に、島から離れ、距離を置くことが勧められている。緊急事態宣言を受けて県が発表した「お願い」には、離島を訪れないことも盛り込まれた▲動画投稿サイトのユーチューブで、対馬市の比田勝尚喜市長が訴えている。「市民の間では、入島制限ができないことに不安も高まっています」▲高齢者の割合が高く、感染症の病床は数えるほどしかない。離島で感染が広がれば、その影響は計り知れない。五島市の野口市太郎市長もユーチューブで、今は「訪れないやさしさ」で島をお守りください、と呼び掛けている▲人口が減り、人を呼び寄せることに活路を見いだす離島はいま、人を呼ばないよう手を尽くしている。つらいのはどこも同じだとしても、島の人々は孤塁を守るような、しんどい心持ちだろう▲字引によれば「離」という漢字には「離れる」とは反対の「並んでくっつく」の意味もあり、「離会」とは会合することを指すという。人が居並ぶ島、それが離島と呼べる日を思い描く。(徹)

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