農業の復旧 見通せず 大村・福重地区 長崎県内、大雨特別警報から3カ月

決壊した部分に土のうが積まれた佐奈河内川=10月6日、大村市今富町

 長崎県内4市3町に大雨特別警報が発表された7月の記録的な大雨から3カ月が経過した。崖崩れや河川の氾濫などが相次いだ大村市でも少しずつ復旧工事が進み、日常を取り戻しつつある。一方、被害が大きかった同市の福重地区では、農業被害の完全復旧に長期化が見込まれ、住民らは今後の防災のあり方に課題を感じている。同地区の現状を取材した。

 長崎自動車道大村インターチェンジから北へ5分ほど車を走らせると、黒い土のうが積まれた護岸が見えてくる。佐奈河内川と郡川が合流する一帯では、7月6日の大雨により護岸が決壊し、周辺の水田には流入した土砂が広がっていた。現在は改修工事が進められているものの、付近に水田があった様子はうかがえない。
 大村市の7月6日午後3時17分までの1時間降水量は94.5ミリ、7日午前6時40分までの24時間雨量は384ミリで、いずれも観測地点としては史上最大を記録。同市のまとめ(8月末現在)では、この大雨による市全体の被害総額は約46億7千万円に上る。このうち農林水産業への被害が最大の約19億5千万円、河川公園約12億7千万円、商工業・観光約10億円、道路約3億9千万円-など。特に市北部の福重地区では佐奈河内川と郡川の氾濫で、流域の民家や田畑の浸水、ビニールハウス倒壊などの被害が広範囲に及んだ。

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 「台風には備えていたけど、水害は考えもしなかった」-。同市今富町で観葉植物を栽培しているエコグリーンヒガシの東有香さん(36)は、ため息交じりに語った。
 東さんらは当時、午後2時ごろまでハウス近くで作業。子どもの迎えのためいったん離れ、同4時ごろ戻った時にはすでに一面海のようになっていたという。商品発送のために積んでいた段ボールをはじめ、育てていた植物十数万鉢のうち約9割が流され、ビニールハウスや温度管理の装置なども被害を受けた。
 特に東さんのハウスで育てられたゴムノキは、独特の曲がり具合が特徴で人気も高いという。「どれも出荷までに1年半から2年かかる一点物。育てていた物がまるごと無くなり、来年は注文が入っても出荷できず収入が見込めない」(東さん)。
 現在、わずかに残された植物の出荷や多肉植物の販売を再開。行政による支援内容も固まってきているが、完全復旧はまだ見通せないでいる。「ビニールハウスがすべて再建され、一面に植物が並んだ時に『復旧した』と思えるのかな」。9月下旬にようやく始まったというハウスの建設工事の様子を見ながら、東さんはつぶやいた。

水害を逃れたゴムノキの出荷作業をする東さん。多くの植物が流されたことの説明も添えている=大村市、エコグリーンヒガシ

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 災害から住民の命や財産を守ろうと、福重地区の住民による防災組織も活動を本格化させている。
 地区内各町の代表で組織する「福重地区防災まちづくり協議会」は、大雨被害のわずか2日前の今年7月4日に設立。「設立総会の時点で大雨の情報は入っていたが、ここまでの被害になるとは思わなかった。改めて組織の役割の重要性を痛感した」と宮崎和之会長は力を込める。
 協議会では今月、大雨被害の状況や県、市への要望活動についてまとめた広報紙の第1号を発行。町内会未加入世帯を含め約1800部を配布し、地区全体での情報共有を目指している。今後は自然災害に対する住民の意識調査などにも取り組み、災害に強い町づくりを進めたいとする。

広報紙第1号の製本作業に取り組む福重地区防災まちづくり協議会のメンバー=大村市皆同町、福重出張所

 一方で、地区内の避難所整備のあり方は、今後の大きな課題と指摘する。

 福重地区では福重出張所、市立福重小、郡中、妙宣寺の4カ所が指定避難所となっている。だが大雨の当日、福重出張所は浸水のため受け入れを停止し、福重小も運動場が冠水。郡中は避難所が開設されていなかったため、住民は妙宣寺のほか、自主的に避難所として開放されたおおむら夢ファーム・シュシュなどに集中した。市によると、新型コロナウイルス対策のため避難所の定員は縮小していたが、妙宣寺ではそれを超える約50人が避難していたという。
 避難所浸水の危険性についてはこれまでも、市主催の地区別ミーティングなどでたびたび指摘され、住民らは新たな避難所の指定を要望していた。ただ、住民側が高台となっている福重出張所裏の今富城跡や寿古町の好武城跡に設置を求めているのに対し、市側は水害の際に孤立する恐れがあるなどとして難しいとの認識を示してきた。
 今回の事態を受け市は「新たな施設の建設や既存施設の活用を含め、避難所のあり方について地元の考えを聞きながら対応したい」とするが、協議会メンバーからは「市からの回答は何年も同じ」「住民と市の間に考え方のずれがある」と不満も聞かれる。宮崎会長は「そもそも地区内に避難所が少ないことは問題。住民と市の考えが平行線をたどる中、今回の災害を機にしっかり話し合いを進めたい」と述べた。


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