皇后さま、コロナ禍に果敢に言及 天皇陛下と思い共有

 天皇陛下は毎年の誕生日の際に記者会見をされるが、皇后さまは会見の代わりに「ご感想」を公表するのが通例となっている。2020年12月9日、皇后さまの57歳の誕生日に当たり、「ご感想」が宮内庁を通じて発表された。皇后さまはA4判で4枚余りの文章のうち、およそ半分を費やして新型コロナウイルスの感染拡大に言及された。感染者や医療従事者に対する差別など、深い社会問題にまで踏み込んでおり、象徴天皇として発言が制約を受ける天皇陛下と思いを共有し、陛下の分まで国民に気持ちを伝えようとしているように思えた。(共同通信編集委員=大木賢一)

57歳の誕生日を迎えられた皇后さま

 天皇陛下は2020年2月の記者会見で①罹患(りかん)者と家族への見舞い②医療従事者に対するねぎらい③早期収束への願い―を表明した。ただ、感染第1波がピークを迎える前であり、コロナへの言及はわずかだった。

 その後、感染が拡大するにつれ、コロナ禍に焦点を当てたビデオメッセージを発するのではないかとの見方も出たが、今のところ実現していない。その理由として「国民に何らかの我慢を強いたり、何かを諭したりすることになりかねず、象徴天皇としてふさわしくない」といった声が聞かれた。

本を手に取り、天皇陛下と会話される皇后さま

 今回の皇后さまの「ご感想」でひときわ目を引くのは、感染拡大で顕在化したさまざまな社会問題への言及だ。まず、経営破綻や失業など国民が直面する経済的苦境に心が痛む、と触れた後、次のように踏み込んだ。

 「新型コロナウイルス感染症に感染された方や医療に従事されている方、あるいはそのご家族に対して、差別や偏見の目が向けられるという問題が起きていることや、制約の多い生活が続く中で,家庭内での暴力や子供への虐待が増加している可能性があるということも耳にしており、案じています」

 天皇や皇族が社会問題に言及すれば、「一方の当事者を責める」ことになりかねない。皇后さまの文章は「可能性もある」「耳にしている」と二重の婉曲(えんきょく)表現で断定を避け、誰も傷つけないよう注意しながらも、問題に果敢に触れた印象を受ける。

 かねて子どもの虐待などに目を向けてきた経験も踏まえ、一言一句を推敲(すいこう)しながら「皇后の言葉」を紡ぎ出した痕跡が見て取れる。天皇ではなく皇后だからこそ語れる言葉があることをよく分かっているのではないか。

 また「天皇メッセージ」が実現すれば、こんな表現になるだろうと想像できる言い方もあった。「今後、私たち皆が心を合わせ、お互いへの思いやりを忘れずに、困難に見舞われている人々に手を差し伸べつつ、力を合わせてこの試練を乗り越えていくことができますよう、心から願っております

 ここでつづられているのは、「こうあってほしい」という願いだけでなく、「私たちはきっと乗り越えられる」という、国民への深い信頼だと思う。

マスク姿で進講を受けられる天皇、皇后両陛下

 天皇陛下はこれまで専門家からコロナ禍に関する進講を受けた際、ねぎらいやお見舞いの言葉を繰り返してきた。オンラインでの医療施設の視察も続けている。だが、国民に顔を向けた直接の言葉は、いまだ十分に語っていないように思う。

国際会議の開会式であいさつされる天皇陛下=12月14日

 皇后さまの「ご感想」は、紛れもなく国民に向けた言葉だ。ならば天皇陛下は何をどう語るのか。年明けに出されるというビデオメッセージと、2021年2月に予定される記者会見に注目したい。

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