長崎この1年2020<1> クラスターと医療態勢 「毎日パニック」職員疲弊

院内でクラスターが発生した長崎みなとメディカルセンター=長崎市新地町

 半年もたっていないが「はるか昔の感覚」だという。7月中旬にクラスター(感染者集団)が発生した長崎みなとメディカルセンター(長崎市)。約1カ月で職員7人、患者7人の計14人の感染が確認された。門田淳一院長は目に見えない新型コロナウイルスに直面し「毎日パニックだった」と当時を振り返る。
 1人目の感染発表以降、病院の電話は鳴り続けた。受診可否の問い合わせだけでなく、「病院で感染者を出すとは何事か」と批判的な言葉も少なくなかった。今でこそ「誰もが感染する可能性」の認識は深まってきたが、当時の県内感染者はまだ20人程度だった。
 感染者のプライバシー保護の観点から出せる情報は限られ、その情報の少なさは市民の不安と恐怖を増幅させた。「ウイルスに汚染された病院」。そんな偏見が広がり、職員の家族が出社や登園を拒否されたりする事態まで発生した。
 市民の不安を取り除くのと同時に、職員の日常を取り戻すためにも、全職員約1100人のPCR検査を急いだ。しかし、当時の検査能力は現在の半分以下。担当医師は寝る間を惜しんで検査に当たった。職員同士が接触しないよう院内の動線を分け、消毒を徹底。診療も一時的に休止した。
 迅速な対応が奏功し、発生病棟は1棟だけに抑えた。ただ、時間の経過とともに職員は肉体的にも精神的にも疲弊していった。そんな時、医療従事者向けのメッセージやライトアップなど街中の応援に強く励まされたと感謝する門田院長。経営的に厳しい状況は続くが「市民の健康と命を守ることが責務。今は頑張るしかない」。職員一丸でウイルスと闘っている。
 12月に入り、県内で再び感染者が増え、病床数も逼迫(ひっぱく)してきた。対応する医療スタッフの急な確保は困難だとし、門田院長は市民にこう訴える。
 「コロナ患者が急増すれば一般診療が制限され、本来助けられる命を救えなくなる可能性もある。医療崩壊を招かないように『感染者を増やさない』という意識を一人一人が強く持ってほしい」

 


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