コロナ禍「今できることを」 リモート演奏 創作に意欲 佐世保のジャズピアニスト 林田美緒さん

コロナ禍でリモートセッションという新たな表現手法に出合い、書き下ろし作品をオンラインで発表する林田美緒さん=佐世保市内の自宅

 コロナ禍で演奏活動が制限される中、リモートセッションという新たな表現に出合い、オリジナル曲を次々と発表するアマチュアピアニストがジャズの街・佐世保にいる。2児の母、林田美緒さん(36)。新型コロナウイルス感染拡大で世界が一変した2020年を「自分にとって大切なものを見つめ直す年になった」と振り返り、21年は「さらなるチャレンジをしたい」と語る。

 林田さんは昨年初めまで長崎県佐世保市を中心に毎月、ジャズの演奏活動を楽しんでいた。だが、新型コロナの影響で昨年2月のライブを最後に全てキャンセルになった。自分を表現できる場を失い、「この先、何年も活動できないのでは」と気持ちは沈んでいった。
 4月には緊急事態宣言が全国に拡大され、友達にも会えなくなった。子どもとお菓子を作ったり、パンを焼いたり…。音楽以外のことを楽しんでいた。だが5月に、福岡県に転勤したドラムのバンドメンバーからオンラインセッションをしたいと提案があった。林田さんは遠隔セッションに疑問を抱いたが、やってみると実際に演奏をしている感じがして、悪くなかった。
 「何もしないよりいい。やってみよう」。メンバー各自が自宅でメトロノームに合わせて動画を撮影し、それぞれのパートを編集で組み合わせると楽曲になる。コロナ禍の前に作った曲を5月中旬に初めて録音して、動画投稿サイト「ユーチューブ」で発表した。
 リモート作業による作品を見た友人からは「久しぶりに音楽聴いた気がする」とうれしい反応。林田さんは「リモートでも演奏が求められている深刻な状況かな」と思った。
 コロナ禍の中、ライブ活動の拠点だったジャズバーの店主が急逝するという衝撃的な出来事もあった。
 5月末、ジャズスポット・いーぜるの2代目店主、百合永貴さん(享年60歳)が亡くなった。初代店主の山下ひかるさん(享年66歳)は16年7月に他界しており、店を引き継いで4年後のことだった。
 林田さんにとって、いーぜるは音楽仲間が集まるホームのような特別な場所。百合永さんの死をきっかけに「いーぜるに対する温かい気持ちが湧き上がり、曲が自然に浮かんできた」。この曲を「The Days with “EASEL”」と名付け、仲間が歌詞を付けて歌い、フェイスブックに投稿した。
 自分が本当にやりたいことは何なのか。そう考えると「単純に音楽が好きだ」と気付いた。コロナ禍の中で思いが解放され、「今やれることをやろう」「作曲をしてありのままの自分を表現する」。こう決意すると、創作意欲がどんどん湧いてきた。
 6月からオリジナル曲を作り始め、8月には第1作「Glowing orange spirits」をオンラインで発表した。コロナに立ち向かう人々の闘志と太陽のオレンジ色がリンクしたイメージ通りの曲がリモート演奏で完成すると、トリオのメンバーはLINE(ライン)で「バンド感あるね」「3人で乾杯したい」と喜び合った。
 コロナ禍で作った曲は6月以降、20曲以上になった。転勤で福岡にいるメンバーとの連絡や曲のイメージ共有はLINEなどを活用し、曲は一度も会うことなく完成する。「距離を感じなくなり、こういう世の中になったんだな」。林田さんはこう実感している。

それぞれの自宅で撮影した演奏動画を組み合わせたリモートセッション(動画投稿サイトユーチューブの画面)

 3歳から中学3年までクラシックピアノを習った。中学、高校では吹奏楽部でトロンボーンを担当し、アンサンブルを学んだ。作曲は中学の頃からの趣味だった。高校時代には、本県で開かれた全国高校総合体育大会(長崎ゆめ総体)のファンファーレを作って応募した。優秀賞に選ばれ、総合開会式で披露された実績もある。
 大学では作曲など音楽を全般的に学びたいと、宮崎大教育文化学部に進学。宮崎市内のジャズ喫茶や同大のジャズサークルで腕を磨き、帰郷した。佐世保ではジャズ理論の講座を開いたり、個人レッスンをしたりして後進の育成にも取り組んでいる。
 「ジャズに興味を持ってもらうきっかけを提供できるように、時にはリモートセッション、時には生演奏という方法でオリジナル曲を届けられるよう全力投球したい」と語る林田さん。21年は楽曲提供も視野に活動の幅を広げたいという。

 林田さんの作品は「ミオノトリオ」で検索すると、ユーチューブで視聴できる。1月10日午後4時から佐世保市島瀬町の「プラトンの隠れ家」でライブを予定しており、既に満席となっている。

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