「好転のしるし」に

 白いミツバチが群れをなして飛んでいる。アンデルセンの童話「雪の女王」に、雪が舞うさまをこう言い表す場面がある。中でも女王蜂は〈町を飛び回って家々の窓をのぞき見る〉▲窓ガラスにできる花のような結晶は、女王蜂がのぞいた跡らしい。古今東西、降雪を何かになぞらえる例はいろいろある。ドイツでは、不思議な力を持つホレおばさんが「寝床を直している」と言い習わす。振るった布団の羽根が舞うさまと、雪が降る景色を重ねている▲〈天上に宴(うたげ)ありとや雪やまず〉。大正生まれの俳人、上村占魚(うえむらせんぎょ)は、天上のにぎやかな酒宴が雪を降らせている、と詠んだ。これも味のある例えだろう▲年明けに天上で七福神がうたげを開き、こぼれた酒が雪となって地上に降り注ぐ。一句はそんな故事を連想させる。「おさがり(御降り)」とは正月の三が日に降る雨や雪のことで、豊年のしるしという。年の初めの雪は、昔からめでたいものとされてきた▲〈雪やまず〉ではなかったが、県内ではきのう雪が舞った。降り続き、積もれば、交通機関が乱れたりと困ったことになりかねない。積雪が案じられる▲一方でこの雪を「好転のしるし」とも思いたい。何しろ地上はいま、ウイルス禍で騒然としている。三が日を過ぎ、松の内を過ぎた頃の雪にも天恵があることを。(徹)

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