将棋「指す」より「観る」、ネット中継に熱視線

AIで分析、独自企画も

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羽生善治九段(左)、藤井聡太二冠

 対局が終盤へ向かうにつれ、画面上に映し出されたAI(人工知能)が導き出す「評価値」の差が開いていく―。将棋のインターネット中継の一場面だ。どちらの棋士が優勢か、視聴者が一目で分かる仕組みとなっている。最年少二冠となった藤井聡太王位・棋聖(18)や、前人未到のタイトル通算100期を目指す羽生善治九段(50)など話題が続く将棋界。ネットの対局中継はファンの熱い視線を集めている。番組担当者は「長時間に及ぶ対局はネット中継と相性が良い」と手応えをつかんでいる。自ら指すよりも観戦が中心の「観(み)る将」という楽しみ方も浸透してきた。(共同通信=浦郷遼太郎)

 ▽独自企画

 5四香―。昨年8月、八大タイトルの一つ、王位戦の第4局2日目。藤井二冠(当時棋聖)が45分の長考の末指した62手目で、木村一基九段(47)=当時王位=との間で徐々に開きつつあったAIの評価値の差はさらに開き、タイトル奪取をぐっと引き寄せた。

第61期王位戦7番勝負第4局で木村一基王位(右)との2日目の対局に臨む藤井聡太棋聖=2020年8月20日、福岡市(肩書はいずれも当時、日本将棋連盟提供)

 王位戦は動画配信の「ABEMA」で全局生中継され、藤井二冠誕生が決まったこの日の視聴者は累計約500万人に上った。

 2016年開局のABEMAは、17年2月に将棋チャンネルを開設すると、当時デビュー間もない藤井二冠(当時四段)が羽生九段(当時三冠)らトッププロ7人と対局する企画「藤井聡太四段 炎の7番勝負」を開催。非公式戦ながら藤井二冠は羽生九段ら6人に勝利し、話題となった。

 また、持ち時間が5分で超早指し戦の「AbemaTVトーナメント」では1手指すごとに5秒が追加される「フィッシャールール」を採用。「将棋対局=長時間」のイメージにも変化が生じてきた。

 ▽「AI超え」

 昨年1月には、対局中にリアルタイムで形勢判断や指し手の評価を行う独自のAIシステムを導入。プロ棋士による従来の大盤解説に加え、勝率をパーセンテージで示すことで、難解な局面でもより視聴しやすい環境を整えた。

ABEMAの中継画面(同社提供、開発段階のもので現状とは異なる)

 一目で形勢が分かることで名人戦など2日制で長時間に及ぶ対局中継も、ネット環境さえあれば「スキマ時間」で視聴ができる。コメント機能を使って解説棋士と視聴者がコミュニケーションを取れることも大きな魅力だ。

 昨年の棋聖戦第2局で、藤井二冠が58手目に指した「3一銀」はソフトに6億手読ませ、はじめて最善手に上がる手だったことから「AI超え」とネット上で話題となった。

 将棋チャンネルの塚本泰隆プロデューサー(33)は「プロが指す手のすごさを表現するのは難しいが、AIを導入したことで棋士の頭の中を見ているような、客観的な視点で対局が楽しめる」と話す。

 ▽観る将

 ファンの裾野が広がり、対局中の「勝負メシ」や棋士のオフショットなどにも注目が集まる。

 東京都台東区の御徒町将棋センターで昨年8月下旬、関東の若手棋士らで運営される団体が「あつまれ!観る将の森」を開催した。この日は新四段となったプロ棋士と交流しようとファン約20人が集まり、トークショーやプロ棋士の目隠し対局などを楽しんだ。

目隠しした状態で対局を行うプロ棋士(手前)=2020年8月、東京都台東区

 2、3年前に本格的な将棋ファンになったという、さいたま市の大学院生星野恭宏さん(25)は「(プロ棋士の)素の姿を見られて距離が近く感じた」と笑顔で話す。主催した石井健太郎六段(28)は「ここ数年はネット中継で将棋を知って参加する人がほとんど。ファンを増やせるよう今後も交流を図りたい」と力を込める。

 ABEMAの塚本プロデューサーは「間口を広げつつ、将棋が持つ面白さや、それを指すプロ棋士のより深い魅力を伝えていきたい」と語った。

 ▽共存

 史上最年少プロ棋士の誕生から4年あまり。将棋界では、16年から取り沙汰されたトップ棋士のソフト不正使用疑惑で揺れていた。そのさなかに現れた中学生棋士の活躍は連日ワイドショーなどでも取り上げられ、棋界の「救世主」となった。

 加えて、手軽に視聴できるネット放送の普及は将棋になじみが薄い世代にも浸透し、「観る将」という言葉も誕生した。対局中継ではAIの「次の一手」を予想するコーナーを設け、ライブ感も楽しめるようになった。

 ソフトと棋士が対戦する「電王戦」は17年に終了し、今後は共存の時代を迎えようとしている。AIの手が示す意味を解説する棋士の力も問われる。このブームを継続していけるか。今後の棋界を一ファンとして見守っていきたい。