映画興収「過去最低」でも

 東京の少年と、飛騨に住む少女の心が入れ替わるという、不思議なアニメ映画「君の名は。」(新海(しんかい)誠監督)が爆発的にヒットしたのは2016年。その年、邦画と洋画を合わせた興行収入(興収)は過去最高だった▲その次に新海監督が手掛けた「天気の子」は、天候を操る力を持つ少女と、離島から家出してきた少年の話で、19年に大ヒットした。青空も雨粒も街角の看板も、景色の一つ一つが息をのむほど美しい▲この年は「アナと雪の女王2」なども公開され、興収は過去最高を塗り替えている。アニメ映画の当たり年は、どうやら興収もぐんと伸びる▲昨年末、アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が作品別の興収として歴代1位に躍り出たのは記憶に新しい。コロナ禍での救世主とされたが、映画界全体では、興収も入場者数も過去最低に落ち込んだ▲客足が戻るのに妙案はない。だとしても「鬼滅」のヒットは、映画館に安全に足を運べることのアピールにはなった▲「君の名は。」が「鬼滅」に抜かれたとき、新海監督はコメントしている。〈悔しいなあと思いつつ…僕も良い映画が作れるよう、日々がんばります〉。大ヒット連発の気鋭の人が、たとえ抜かれても拍手を送り、顔を上げる。映画界への、苦境に立つ人々への励ましのようでもある。(徹)

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