【フェブラリーS】競馬サークルの女性パイオニア・梅内栄子調教助手が語るオーヴェルニュの今

オーヴェルニュの頭を優しくなでる梅内栄子助手。人馬の絆の深さが伝わってくる

例の「森発言」が国内外で波紋を広げている今だからこそ、取り上げたい人馬がいる。第38回フェブラリーS(21日=東京ダ1600メートル)にエントリーしているオーヴェルニュ(牡5・西村)の担当は、競馬サークルで女性のパイオニアとして道を広げてきた梅内栄子調教助手。長い時間をかけて丹念に、そして繊細に接し続けてきたからこそ、目下3連勝と快進撃を続けるオーヴェルニュの今がある――。

前哨戦の東海Sで見事勝利を飾り、フェブラリーSの主役候補に名乗りを上げたオーヴェルニュだが、リステッド連勝(福島民友C→ベテルギウスS)から初の重賞挑戦となった当時は、懐疑的な見方をしていたファンも相当数いたのでは?

ところが…。直線でズルズル後退するチャンピオンズC3着馬インティを尻目に、オーヴェルニュが好位からの競馬で力強く抜け出したのはご存じの通りだ。主導権を取ったはずのインティは前半に競りかけられたことで予想以上に脚を使わされたことがすべて。一方で5ハロン通過59秒3という厳しいペースを追走しながらも、しっかり脚をためられたオーヴェルニュの強さが際立つレースとなった。

3連勝での重賞初制覇を担当の梅内栄子助手は「川田騎手が好位で我慢させてくれたおかげですね。もともと行きっぷりが良過ぎて、テンにひっかかることが多かった馬ですから」と振り返る。

この梅内助手はトレセン内では女性調教助手の草分け的存在として広く知られており、栗東得ダネ班としても、かねて取材するチャンスをうかがっていた。もちろん、単に女性だから…というわけではない。調教技術でも一目置かれ、西村調教師から「栄子さんは丁寧な仕事をしてくれるから、何も心配がいらない」と全幅の信頼を寄せられている腕利きに、興味が湧かないわけがないではないか。

近年の藤田菜七子ジョッキーの活躍や、2人の女性ジョッキーが新たにデビュー予定といった話題があがることで、「競馬サークルも女性の進出が目覚ましい」といったイメージを持った方もいるだろうが、現実はそうでもない。

「以前はトレセンにも20人以上の女性スタッフがいたのですが、今は半分くらいかな。(結婚、出産など)いろいろありますから。だいぶ減っているのが実情なんですよ」(梅内助手)

厩舎での仕事は我々の想像以上に気力、体力を要するのだろう。梅内助手も週1回の整体など、体のケアは欠かせないのだとか。それはもちろん、サラブレッドも同じで「馬を扱うことに正解はない。毎日、状態も変わりますからね。だからこそ調教は日々の積み重ねが大事なんです」と口にした後、オーヴェルニュの目下の充実ぶりにつながる話もしてくれた。

「オーヴェルニュは以前、左に張る面があったんですけど、調教を積むことで左右のバランスが整えられ、競馬でも辛抱できるようになりましたからね」

今回のフェブラリーSが自身の担当馬としては2018年のオークス(シスターフラッグ)、20年のNHKマイルC(ソウルトレイン)に次ぐ3度目のGⅠ挑戦となる。過去2回は伏兵扱いだったためか、「気楽でした」と笑う梅内助手だが、今回はそうはいかない。「東海Sのレース中でも心臓がバクバクいっていた」となると、フェブラリーSでのプレッシャーの大きさは想像に難くないが…。

「やることは普段と変わらないですからね。自分がピリピリしていたら馬に伝わるので、そうならないようにしないと」

平常心で臨むことを心がけている。

東海Sで手綱を取った川田(今回はレッドルゼルに騎乗)は「コントロールが難しい馬なので、条件が上がってペースが速くなるほうが競馬はしやすくなると思います」と語っていたが、「オーヴェルニュにとってはペースが流れてくれたほうが都合がいい」と口にする梅内助手とまさに見解は一致している。

思惑通りオーヴェルニュの流れになり、GⅠ戴冠となれば…。競馬界においても新たな波が起こるキッカケになるかもしれない。

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