卒業式

 「…最後まで学校の名前も『西』っていう文字も、一度も出てこないんですよ。何だかおしゃれでしょう、ハハハ。『風輝かし、丘の上』…他はみんな山の上ですからね、ハハハハ」▲新入生向けの説明会で、担当の先生が自分だけ妙に楽しそうだったのは、もう40年も前のこと。懐かしい高校の校歌の話だ。通っている時はもそもそと小声で歌った覚えしかないのに、歌詞もメロディーも意外にちゃんと記憶している▲始業式、運動会、全校集会。不真面目な歌唱態度に例外があったとしたら、これが最後-と胸に迫るものがあった卒業式ぐらいか、とこの時期になると考える。昨日は県内の多くの公立高で卒業式があった▲第3波は去りつつあるが、新型コロナへの警戒を緩めるわけにはいかない。保護者の出席は人数を制限し、来賓はゼロ、後輩たちは電子黒板の映像で教室から式の様子を見守り、校歌は録音を流しました…と教頭先生が教えてくれた▲「密」を避け、飛沫を嫌い、学校から歌声が消えたこの1年。誰にも経験のない“高校最後の1年”は、いつかこの世代だけの財産になるはずだ、といま書くことが何かの足しになるのだろうか、と迷いながら▲マスク姿の記念撮影、顔の上半分はしっかり笑えただろうか。門出の日、いい天気でよかった。(智)

© 株式会社長崎新聞社