阪神設立アマチームに移った「女イチロー」 原点にある“野球ができなかった日々”

「阪神タイガースWomen」の三浦伊織主将【写真提供:阪神タイガース】

女子プロリーグで前人未到の通算500安打達成した三浦伊織主将

阪神が立ち上げた女子硬式野球クラブチーム「阪神タイガースWomen」の三浦伊織主将が、Full-Countのインタビューに応じた。女子プロ野球リーグで前人未到の通算500安打を達成したレジェンドが、アマチュアチームに転身した理由や女子野球普及に懸ける思いを熱く語った。3回連載でお届けする。【石川加奈子】

鳴尾浜でスタートした2月11日の全体練習初日。3時間汗を流した三浦の表情は、充実感でいっぱいだった。「テレビで見ていたユニホームを自分たちが着ているのは、すごいことじゃないですか。こんなに素晴らしい環境で野球ができていることに感謝して、女子野球の普及発展に貢献したいと思います」と気持ちを新たにした。

昨季まで11年間在籍した女子プロ野球リーグでは、MVPを3度受賞。「女イチロー」の異名どおり、巧みなバットコントロールで首位打者を4度獲得し、盗塁王にも8度輝いた。押しも押されもせぬトッププレーヤーがアマチュアクラブチームへ移籍した背景には、女子野球普及に懸ける熱い思いがあった。

「11年間いい環境の中、職業として野球中心の生活ができたことは申し分なかったのですが、プロ野球はほかの選手にどんどん広めていってほしいという気持ちがありました」と考え始めた頃、阪神が女子クラブチームを立ち上げる話を耳にして、胸が高鳴った。「別の角度から女子野球を普及できるのではないかという思いが芽生えたんです」と三浦は振り返る。

女子プロ野球リーグにも、もちろん応援してくれるファンがいる。だが、その活動が広く一般社会にまで知れ渡っているとは言い難い。「野球を好きな方は知っていますが、野球をやっていない方からは今でも『女子プロ野球ってあるんだね』と言われます。11年やってきて、女子プロ球界だけでは難しいなと感じていました」ともどかしい思いを抱えていた。

日本球界でも屈指の人気と伝統を誇る阪神タイガースが立ち上げるチームとなれば、多くの人の注目を集めることができる。「(男子と)同じユニホームを着たNPBのチームがあるというだけで、取り上げていただき、注目度は変わってくると思います」と大きな期待を抱き、新たな挑戦を決めた。

中学はソフト部、高校はテニス部「今、野球ができることに感謝」

これまでの野球人生で常に気にかけてきたのは、野球に関心を持つ子どもたちや若い女子選手のことだ。「環境のせいで野球を諦める女の子をひとりでも減らしていかなければ」という使命感は、三浦自身の経験から生まれた。兄の影響で6歳から野球を始め、小学生の時に日本代表のトライアウトを受験。1次審査に合格するほどの有望株だった。だが、中学校では希望した野球部には入れてもらえず、ソフトボール部に入った。

高校で再び野球をやることを検討したものの、当時は地元の愛知に女子硬式野球部がある学校はなかったため、椙山女学園高に進学してテニス部に所属。テニスでインターハイに出場するほど秀でた能力を発揮しながらも、野球への情熱は消えなかった。高3の秋に、翌春からスタートする女子プロ野球リーグのトライアウトを受験して合格。再び野球の世界に足を踏み入れると、女子野球を代表する選手へ一気に駆け上がった。

大好きな野球ができない時代があったからこそ、野球への思いが一層強くなった。そんな自身の経験を踏まえ、女子野球の認知度向上と環境整備に意欲を燃やす。

「私の場合、中学、高校と野球をやりたくてもできない環境だったので、今、野球ができていることに感謝でいっぱいなんです。だから、もう(女子野球は)自分だけのものじゃなくなってきているという感じです」と微笑んだ三浦。阪神の強力なブランド力を借りながら、女子野球の魅力を広げる伝道師としての道を突き進む。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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