「人材確保、専門性向上を」 コロナ感染 県内初の受け入れ 県壱岐病院院長 向原茂明氏 新型コロナ 長崎県内初感染から1年

「人的資源の確保、専門性の向上が課題」と語る向原院長=壱岐市郷ノ浦町、県壱岐病院(撮影のためマスクを外しています)

 昨年3月、県内で初めて新型コロナウイルス感染者を受け入れた県壱岐病院。向原茂明院長に当時の様子や離島医療の課題を聞いた。

 -患者を受け入れたときの現場の混乱は。
 壱岐は(大都市の)福岡に近く、早期に感染者が出ると予測していた。昨年1月から防護具の脱着訓練や備品の確認などを始めた。感染者は1人だったので、比較的落ち着いて対応できた。ただ、当時は情報が少なく、患者と接する看護師らは感染力がどれくらい強いのか分からず不安だった。職員は(ウイルスを)持ち帰らないよう履いてきた靴下は捨てていた。

 -翌4月も島内で5人の感染者が出た。
 まだ院内で検査ができず、検体を本土に送り、結果判明まで3日ほどかかっていた。長崎大から2人の先生に来てもらい(短時間で結果が出る)LAMP法の検査が可能になった。検査技師が指導を受けて態勢が整い、安心感につながった。高齢の感染者が多く、1人は重症化の可能性があった。長崎大学病院や長崎医療センターと連携して自衛隊ヘリで移送したが、重症化の見極めは難しい。

 -年末年始はクラスター(感染者集団)が発生し、56人が感染した。
 正月休みに入ろうとしていたタイミングで起きた。最大20の専用病床に18人まで受け入れた。正月を家で過ごす入院患者も多く、予定手術もなかったためコロナ対応に専念できたのは幸運だった。職員もクラスターに関連して3人が陽性になったが、一番恐れていた院内感染は回避できた。壱岐保健所の皆さんが正月も関係なく、接触者などの調査を頑張ってくれた。

 -離島医療の課題は。
 医師は1人でも欠けると業務が回らない。昨年4月も今年1月も綱渡り状態で、応援に来てもらった。1月は長崎市内でも感染が拡大していたため、苦肉の策で県上対馬病院から医師1人の応援を受けた。看護師も県病院企業団に4人の派遣をお願いした。人的資源の確保が大きな課題。
 がんや難病患者は福岡への通院が多いが、コロナの影響で通えていない。壱岐病院で対応したいが、専門医も少なく、地元には不安の声もある。医師も看護師も「この領域はこの人に任せられる」という専門性の向上も課題。患者の安心、満足度を高めるために、人材を育成していく必要がある。

 【略歴】むこうばら・しげあき 1951年、五島市出身。北里大医学部卒。2007年から県福祉保健部参事監、13年に壱岐市民病院(現県壱岐病院)総病院長に就任。15年から現職。専門は内科。


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