『生きろ 島田叡-戦中最後の沖縄県知事』戦火の中で県民に伝えられた「生きろ」の言葉

2021 映画『生きろ 島田叡』製作委員会

 アジア太平洋戦争末期、沖縄では凄惨な地上戦が行われ、多くの人々が無情に命を失いました。そんななか、戦中最後の沖縄県知事を務めた島田叡という男性を知っている方はいらっしゃるでしょうか? わたしはこの映画を観て初めて名前を知りました。そしてこの映画を観て、沖縄にこんな人物がいたことを知ることができて本当に良かったと思っています。地方長官というのは政府の人間であり、リーダーです。

 戦中最後の沖縄県知事は、沖縄県ではなく神戸出身。愛する家族を大阪に置いて、ひとりで沖縄へとやってきます。方言を使ったらスパイ行為、踊りも禁止、という沖縄県民へのあまりにも理不尽すぎる日本軍の規制に怒り、「こんなことは許されない!」と抗議しました。その後、地上戦が始まると沖縄県民の命を軽視し、死に追いやっていったのは米軍だけではなく、日本陸軍。真っ暗な壕の中に身を潜める地元民たちを追い出す陸軍部隊のエピソードには島田知事と同じように怒りを覚えました。

 当時の日本は、日本国民に捕虜になることを選ばず、みずから死を選ぶ自決や、玉砕を美徳としてきました。数ヶ月前まで楽しい学生生活を送っていた少女たちは崖から身を投げ、手榴弾を抱いて死んでいってしまったのです。わたし自身、沖縄に行くたび、ひめゆり隊や地上戦の悲惨さを感じられる平和祈念公園などを訪れてきましたが、凄まじい本土戦のことは日本人は絶対に忘れてはいけないといつも心に刻んでいます。でも玉砕主義の戦時教育が広まる沖縄で、国からの命令にあらがいながら、最後まで沖縄の人たちに「生き続けろ、絶対に死ぬな」と伝えたことの重みは今もなお胸に重く響きました。★★★★★(森田真帆)

監督:佐古忠彦

3月20日から全国順次公開

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