【大阪杯】新天地に挑むグランアレグリアの「勝算」と藤沢和雄調教師の一流競走馬への「思い」

2000メートルGⅠに新天地を求めたグランアレグリアと藤沢和調教師

春のGⅠ第2戦・古馬の中距離王を決める第65回大阪杯(4月4日=阪神芝内2000メートル)は「2強対決」ムード。昨年無敗で牡馬3冠を制したコントレイルに対し、負けないくらいの注目を集めるのが美浦の名伯楽・藤沢和雄調教師(69)が送り込むグランアレグリアだ。昨年の安田記念では当時現役最強として誰もが疑わなかったアーモンドアイを撃破し、JRA賞最優秀短距離馬も受賞。2000メートルの距離に新天地を求めたのはなぜ? そして勝算は?

昨年11月にGⅠマイルCSを制した後はノーザンファーム天栄(福島県)でじっくりと英気を養ったグランアレグリア。美浦トレセンには3月3日に帰厩。その翌日には普通キャンターで坂路4ハロン59・0―14・1秒を楽々計時するほど元気に満ちあふれている。その後の調整も至って順調だ。

もっとも、同馬にとって今回の最大のテーマは自身初となる2000メートルの距離。過去にJRA賞最優秀短距離馬がその後に芝2000メートルのGⅠを制した例はニッポーテイオー、モーリスと2例あるが、どちらも最短の勝利距離は1400メートル。芝の1200メートルと2000メートルのGⅠ制覇となれば史上初の快挙となる。

「気性がうるさかったのは3歳の春まで。今は本当に穏やかになって調教も楽になった。2歳、3歳のころに1200メートルを使っていたら、ビュンビュン行く馬になって、大変なことになっていたと思うよ。でもそれをしなかったから2000メートルも意外と平気なんじゃないかな。本当はワンターンの東京とかで1回走らせたほうが無難なんだろうけど、血統的にも中距離をこなせないわけはないんだ」と藤沢和調教師。

初めて距離を1400メートルに縮めた3歳暮れのGⅡ阪神カップを制した直後の20年初頭、年内の目標を同師に問うと「2000メートルの天皇賞・秋」を選択肢の一つに挙げ、意外に感じたのを記憶している。昨年こそ実現しなかったが、藤沢和調教師の中に“いずれは中距離で”の思いが確かにあった。スプリント&マイルの短距離GⅠを次々と勝利し、グランアレグリアが自らの脚で師の思いを現実へと引き寄せたことになる。

距離を延ばすことで、調教等でどのような工夫がなされるのかに注目が集まるが「何もしないよ」と藤沢和調教師は不敵な笑みを浮かべた。

「距離を心配してそう(調教等の変化)考えるかもしれないが、人間のほうがああしよう、こうしよう考え過ぎて必要ないことまでやってしまっては元も子もない。今の馬は血統が進んでいるから、2000メートルや1800メートルというのはどの馬でも走れる距離なんだ。何年、何十年とスピード優先で進化してきて、短い距離でもスピードで勝ってしまうような馬が、結局は中距離や3000メートルでも走れる馬になる。要するにスピードのある馬でないと残れないということ」

同師は世界的な生産者として知られるクールモアが所有するバリードイル調教場(※1)での活躍馬や、かつての所属馬で主に中長距離で活躍したキリスパート(※2)の例を挙げた。坂路での短い距離中心の調教でも、長距離のビッグレースを勝つ馬がたくさんいることを強調。時流はスピードのある馬こそが調教の内容に関係なく、一流の競走馬として距離の概念を超えて生き残っていくのだと説明した。

初対決となるコントレイルに関して「ダービー馬は強い。2000メートル、2400メートルだって得意なのに対し、こっちは2000メートルどころか1800メートルも走った経験がないんだから。挑戦者の立場かもしれないが、グランアレグリアだって桜花賞馬。年齢は違うけど、クラシックホース同士の対決で盛り上がるよな。頑張りますよ」。

来年2月末で定年を迎える藤沢和調教師にとっては、それぞれのGⅠが最後の戦いになる。一戦一戦が目の離せない競馬になるが、師の集大成の思いを背に、グランアレグリアの2021年がいよいよ走りだす。今週末はその雄姿をしっかりと見届けたい。

※1 アイルランドにあるクールモア所有の調教場。現在の専属調教師はエイダン・オブライエン。ニジンスキーやエルグランセニョールといった名馬もここで調教された。

※2 開業当初の藤沢和厩舎所属馬でJRA7勝。ダート1400メートルから芝3200メートルのブラッドストーンS(93年)など幅広い距離で活躍。

© 株式会社東京スポーツ新聞社