人生の時刻表

 作家の故井上ひさしさんは高校時代「人生の時刻表」、つまり将来像をノートに書き連ねたという。例えば19歳の自分は〈習作のつもりで書いた映画脚本が木下恵介監督に認められ映画化される。結果は大好評〉と事細かい▲留学後、映画会社に入り、すぐさま映画監督として成功…と続く。何もかも、とんとん拍子のはずだったが、人生はままならない。時刻表をたびたび書き直す羽目になったと、井上さんは回想文につづっている▲勇ましい意気揚々と、ため息の意気消沈を行き来しながら、時刻表を書いては直す。若い頃はとりわけ、その繰り返しなのだろう。きょう新年度が始まり、社会への第一歩を踏み出す若い人たちがいる▲学生が詠む「これからサラリーマン川柳」の昨年の優秀作に〈スーツ着て向かった先はディスプレイ〉というのがあった。予期せぬ就活だったに違いない。自宅でパソコン画面に向かう「オンライン面接」を経て、いま社会へ出る人は多い▲これから働く場もまた、新型コロナの影響がゼロということはおそらくない。いつか「コロナ後」の社会をつくる最前線に立つのも、清新な気持ちできょうを迎えたあなた方だろう▲先の読めない、長い旅が始まる。時刻表をお供にするのも、きっといい。書き直す余白ならばいくらでもある。(徹)

 


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