水上特攻艇『震洋』 原寸大模型の展示館が完成 「当時の隊員の気持ち想像して」

完成した特攻艇「震洋」原寸大模型の展示館=川棚町新谷郷

 太平洋戦争末期に旧日本海軍が開発した水上特攻艇「震洋」の戦死者を祭る長崎県東彼川棚町新谷郷の「特攻殉国の碑」近くに、震洋の原寸大復元模型を収めた展示館が完成した。同郷住民らがクラウドファンディングなどで資金を募り建設。「当時の状況や隊員の気持ちを想像する一助にして」と期待している。
 震洋は海軍唯一の水上特攻艇。全長5メートルほどのベニヤ板製の船に爆薬を積み、体当たりで敵艦を攻撃した。同郷に訓練所が設置されたことから、元隊員らでつくる「特攻殉国の碑保存会」が戦後に慰霊碑を建立。高齢化で保存会が解散した後は、同郷住民が碑の管理や毎年5月の慰霊祭運営を引き継いでいる。
 復元模型は、在京テレビ局が2015年に戦後70年の企画で製作。当時の設計図や写真を基に、可能な限り再現した。番組収録後、テレビ局から同郷に寄贈されたが、置き場所がなく、長らく別の場所に保管されていた。
 「平和学習などで活用したい」と碑の近くに展示館を建て、模型を移設する計画が持ち上がった。昨年からクラウドファンディングで資金を募り、計75万円を集めた。その後は地域住民や地元企業を地道に回って出資を呼びかけ、最終的に計650万円を調達。ガラス越しに中を見ることができる展示館を建設し、4月に模型を移した。

規模を縮小して開催した慰霊祭で「特攻殉国の碑」に手を合わせる関係者=川棚町新谷郷

 当初は出資者向けの完成披露式典などを予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で見送った。9日にあった慰霊祭も昨年に引き続き、地域住民のみで開催。参列者が碑前に花を手向け、手を合わせた。郷総代の寺井理治(おさむ)さん(74)は「模型を移設したことで、小さなボートで戦地に向かった若者の気持ちを想像しやすくなった。平和をつなぐ大きな役割を果たしてほしい」と話した。
 展示館は外からはいつでも見学可能。館内を見たい場合は、町役場か寺井さん(電090.4991.0715)に連絡する。


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