【日本ダービー】スーパー牝馬サトノレイナス アーモンドアイでの忘れ物を取り戻す!

洗い場で愛着たっぷりの手入れを受けるサトノレイナス

仮にアーモンドアイがダービーに挑戦していたなら…。悲願は成就していたことだろう。あれから3年。第88回日本ダービー(30日=東京芝2400メートル)を前に、最も気持ちを高ぶらせている男は間違いなく国枝栄調教師(66)その人だ。牝馬での“忘れ物”は牝馬で取り戻す――。サトノレイナスのダービー参戦はまさにトレーナーの決意表明だ。

70歳の定年まで残すところ4年。JRA・GⅠ19勝を積み上げた国枝栄調教師をしても、唯一欠けるパズルのワンピース…それが日本ダービー制覇である。3年前の春、トレーナーがこう言って笑ったことがある。

「もし自分で決められるのなら、すぐに自分でダービーの追加登録料を払っちゃうけどな」

ポケットマネー200万円すら惜しくはない。当時、そう思わせたのは歴史的名牝アーモンドアイ。同馬とアパパネで牝馬3冠を2度達成した名伯楽とて、これまでダービーは挑戦自体がわずかに7回。勝つことはもちろん、舞台に上がることの難しさを熟知すればこその発言だった。思えばそんな師が最もダービーのゴールに近づいたのは、くしくもアーモンドアイでオークスを制した2018年だった。優勝馬ワグネリアンから0秒2差の3着コズミックフォースがその馬だが、レース後にトレーナーは鞍上・石橋に確認せずにはいられないことがあったという。

「彼はラッキーライラック(オークス=0秒6差の3着)の主戦騎手でもあったからね。コズミックフォースと比較したらどうなんだと聞いたんだ。そしたら“先生、申し訳ないけど、ラッキーライラックのほうが全然、上です”って。まあ、俺も思ったよ。やっぱり(アーモンドアイで挑戦していれば)最大のダービー制覇のチャンスだったと(笑い)」

前置きが少々、長引いた。そう、今年のサトノレイナスのダービー挑戦はズバリ、当時の“忘れ物”を取りに戻ったことを意味する。決してやみくもなアタックではないのだ。指揮官は勝算をこう口にする。

「ジャパンCを振り返れば3歳牝馬の活躍が目立つだろ? それを支えているのはやはり古馬や牡馬との斤量差だよ。おそらくダービーも同様。きっと牡馬との2キロ差は大きいはず。例えばサトノレイナスが今、兄のサトノフラッグと2キロ差で走ったとしたら、間違いなくレイナスが上に来ると思うんだ。もちろん、皐月賞馬は強いよ。でもアーモンドアイの時の経験、今年の力関係を分析すれば、十分にやれると判断した」

実はエフフォーリアとは過去に“幻の対戦”があった。それはサトノレイナスの共同通信杯への参戦プランだ。状況が整わずご破算となったが、当時から牡馬との混合戦を視野に入れていたのは、紛れもなくダービー出走の青写真が陣営にあったがゆえ。そして“ダービー級”の認識は主戦騎手とも共有している。1週前追い切り後、名手ルメールはこう口にした。

「ウオッカはメチャクチャ強くて素晴らしい馬でした。スーパー牝馬だけがダービーを勝てます。マイルではスピードが不足していたサトノレイナスも、まだポテンシャルをフルには見せていません。桜花賞(2着)からスイッチが入ってパワーアップしたし、2400メートルではきっと違う馬になります。ボクも4年前の(レイデオロでダービー初制覇を決めた)フジサワ先生の時と同じ気持ち。クニエダ先生にもダービーをプレゼントしたいです」

最大の武器は積み上げてきた多くのキャリア。07年ウオッカ以来、14年ぶり史上4頭目の牝馬のダービー制覇へ、そしてベテラントレーナーの悲願達成へ…牡馬への遠慮なき戦いが幕を開ける。

© 株式会社東京スポーツ新聞社