【緊急避妊薬のOTC化】市民団体が要望書をスイッチ検討会議に提出/6月7日の検討会に注目集まる

【2021.05.28配信】市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」は5月28日、厚生労働省医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課宛てに、緊急避妊薬の要指導医薬品化を求める要望書を提出した。厚労省「医療用から要指導・一般用への転用(スイッチ)に関する評価検討会議」では広く学会、団体、消費者から要望を募っており、この仕組みに対して同団体が要望書を提出したもの。同会議は6月7日の開催を決めており、議題として「緊急避妊薬の検討の進め方について」も掲げている。今回の要望書が議論の行方にどのような影響を与えるか注目が集まる。

「スイッチ“否”となった2017年とは環境違う」

市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」は、女性の健康のために行動する国際デー(International Day of Action for Women’s Health)である5月28日に、医療用医薬品から要指導・一般用医薬品へ新たに転用が望まれる成分として、緊急避妊薬のスイッチOTC医薬品としての要望申請を厚生労働省に提出した。まずは医薬品のリスク区分として要指導医薬品への転用の要望となる。

同日、厚労省内で記者会見を行い、共同代表の染矢明日香氏(NPOピルコン理事長 )と産婦人科医の遠見才希子氏が要望内容を説明した。

同団体は、まず、この時期に要望に至った背景としてコロナ禍で性暴力に対する相談件数が増加しているなど、社会環境の変化を挙げた。コロナの診療でひっ迫する医療機関だけでなく薬局での入手経路の選択肢を増やす必要があるとした。

さらに、緊急避妊薬の医師による処方に関しては、初診からオンライン診療を可能とする見直しが実施されており、それに対応するための研修に、すでに9000人を超える薬剤師が参加しており、緊急避妊薬のスイッチ化が「否」とされた2017年当時よりも薬局薬剤師における緊急避妊薬への知識習得が進んでいることも変化として挙げている。

加えて、閣議決定された第5次男女共同参画基本計画において、「緊急避妊薬を薬局で処方箋なしで適切に利用できるよう検討する」との方針が明記されているなどの、政府の動きも説明した。

2017年のスイッチ検討会議への議論そのものについても、「科学的根拠によって行われたのかを考えてほしい」と要望。

過去の検討会で緊急避妊薬のスイッチ化に反対する意見に対し、WHO(世界保健機関)やFIGO(国際産婦人科連合)などの国際機関による推奨を比較した。

例えば、過去の検討会では「生殖内分泌や性教育などの知識がない他科の医師には処方困難である」「産婦人科の専門知識を持った医師が処方を行うべきである」とされたが、国際機関では「医学的管理下におく必要はない」としている。
「緊急避妊薬がOTC化されると、100%妊娠を阻止できると一般の方が誤解されるのではないか」との意見に対しては、国際機関では「市販化された場合、若い女性もラベルや説明書を正しく理解し使用できる」としていることを紹介した。
「性感染症が増えるリスクは非常に多く考えられる」との意見に対しては、国際機関では「性感染症は増加しない」とされているとした。
「常習化したときに本当に子供が欲しかったときにどうなるのかというのはわからない」という意見に対しては、「繰り返し使用しても健康被害の報告はない」「妊孕性の影響はない」と国際機関から示されているとした。
「13歳や14歳でも買う可能性が出てくる時代になっているから薬局で売ることは難しい」との意見に対しては、国際機関では「思春期を含め安全に使用できる、すべての女性にアクセスする権利がある」としていることを紹介した。
こうした2017年の議論と同様の議論は2019年の検討会でもみられた。2019年の「男児が女性化
するリスクがある」との意見に対しては、国際機関では「胎児に害はない」としているとした。

これらは科学的根拠が見当たらないものであるとし、「個人の価値観や考え方が検討会の場で述べられているのではないか」と懸念を示した。「検討会議での議論再開にあたっては、WHOのファクトシート、国際機関の勧告・推奨を今一度、確認してほしい」と要望した。

緊急避妊薬を正しく知ってもらうことも必要と強調。
「緊急避妊薬 知っておきたい8つのこと」を分かりやすくまとめている。
1 緊急避妊薬は思春期を含むすべての女性に安全に使用できる。
2 緊急避妊薬に重い副作用や長く続く副作用はない
3 緊急避妊薬は子宮外妊娠のリスクを高めない
4 緊急避妊薬は将来の妊娠のしやすさに影響しない
5 緊急避妊薬は胎児に害を与えない
6 緊急避妊薬は流産させる薬ではない(排卵をとめたり遅らせることが主な作用)
7 市販化された場合、女性は、緊急避妊薬の情報を理解し正しく使用できる
8 緊急避妊薬が手に入りやすくなっても、無防備なセックスは増えない

同団体の活動ではすでに11万人が署名しており、こうした署名活動や民間団体による性教育の実施の広がりなどを背景に、緊急避妊薬への社会の関心や理解も年を追うごとに高まっていると考えられるとした。

さらに、薬局薬剤師への期待として、第一にアクセスを改善する医薬品供給の場となることを挙げた。
「性暴力への対応ができるだろうかという不安の声を薬局薬剤師の方からいただくことがあるが、それは薬剤師さんだけでなく、社会の支援体制を強化していく問題でもある。性暴力被害の可能性がある場合は「ワンストップ支援センター」(#8891)や警察への相談(#8103)などがある。薬局での市販化によって、こうした情報を薬局から伝えることも可能にもなる。医療者は“ノンジャッジ”で適切な情報とサービスを提供することが求められていることだ」(遠見氏)

同団体では1994年に国際人口開発会議で提示された「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」が尊重されることが必要と話した。これは性や子供を産むことに関わるすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態であり、自分の意思が尊重され、自分の体のことを自分で決められることを指すという。

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<編集部コメント>
再度、議論に浮上することになった緊急避妊薬のOTC化問題。
単なる医薬品の問題の枠を越えて、性教育の問題や女性の権利問題にまで及ぶため、議論の難しさがある。
しかし、だからこそ、今後の検討会議での議論の進展に、多くの国民が関心を寄せていることは間違いない。

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