53歳で住宅を購入した夫婦。老後資金作りとローン返済を同時にどう進める?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、53歳、パートの女性。立ち退きにより住宅を購入し、ローンの支払いが始まる相談者。現状の家計で老後は大丈夫なのでしょうか? FPの渡邊裕介氏がお答えします。

コロナ禍、立ち退きで住宅を購入しましたが、このままで大丈夫なのか、漠然とした不安があります。iDeCo(私のみ満額)をやっていますが、手堅く貯金しておくほうがいいのか、もう少し投資あるいは外貨預金などをしたほうがいいのか迷っています。

住宅ローンは、物件購入額870万円、借入額670万円、金利0.63%、返済期間15年、5月より開始。

※相談内容は一部編集しています。

【相談者プロフィール】

・女性、53歳、パート、既婚

・同居家族について:夫(53歳)、管理会社一般社員、月収約14万円

私、小売業パート、月収約15万円

次女、小売業パート、月収約13万円。(第一子は独立)

・住居の形態:持ち家(マンション・集合住宅/千葉県)

・毎月の世帯の手取り金額:29万円(次女の収入を除く)

・年間の世帯の手取りボーナス額:5万円

・毎月の世帯の支出の目安:28万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:7万2,000円

・食費:5万円

・水道光熱費:1万5,000円

・保険料:1万7,000円

・通信費:2万5,000円

・車両費:1万円

・お小遣い:3万円

・その他:5万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:2万3,000円

・ボーナスからの年間貯蓄額:3万円

・現在の貯蓄総額:860万円

・現在の投資総額:0円

・現在の負債総額:670万円

・老後資金:公的年金・夫婦で月額23万3,000円、退職金330万円


渡邊:こんにちは。ファイナンシャルプランナーの渡邊です。立ち退きにより住宅購入をされ、これから住宅ローンを返済しながらの老後資金準備のご相談です。

既にお子さまは経済的には自立されていますので、教育費負担は考えなくても大丈夫ですが、繰上げ返済を取り入れない場合は完済年齢が68歳になるため、計画的に準備する必要がありそうです。

住宅ローンが完済できれば老後も現在の生活水準を維持できる

まずは、老後に向けて必要な金額について考えてみましょう。

借入金額:670万円 金利:0.63% 借入期間:15年→
返済金額:3万9,018円/月

もし65歳までは働くとすれば、12年後の65歳までには完済したいところです。上記条件で、12年後の残債は約140万円程度となります。現在の貯蓄額や退職金の額を考えると、十分完済できる金額になります。

現在の住居費以外の生活費を見てみると、月々19万7,000円となります。現在の住居費が7万2,000円/月なので、住宅ローン金額から逆算すると、マンションの管理費や修繕積立金が3万3,000円となり、その他生活費と合わせると月々約23万円となります。

将来の公的年金の受取金額はご夫婦で23万3,000円とのことですので、住宅ローンを完済できれば、ちょうど今の生活費くらいは確保できる計算となります。

老後資金、いつまでにいくら用意すべき?

その他に必要なお金としては、医療費や介護費用、緊急予備資金などで500~1,000万円程度、住宅リフォームや修繕などで300万円~500万円程度考えておくと安心です。これらからご相談者の場合、65歳時点で1,500万円程度手元に準備しておきたいところです。

退職金が330万円、住宅ローンの65歳時点の残債140万円、現在の貯蓄860万円を考慮すると、今から65歳までに貯蓄が必要な金額が450万円となります。

450万円÷12年間÷12カ月=3万1,250円で、今から、月々3万1,250円、年間37万5,000円を貯めることができれば、準備できる計算となります。

どうやって準備する?

では、次にどう準備するかについて考えていきましょう。方法としては大きく2つです。

(1)貯蓄を増やす
(2)運用を取り入れる

(1)貯蓄を増やす
現在の年間貯蓄が30万6,000円ですので、今よりも年間約7万円貯蓄を増やす必要があります。今の生活費を少し抑えて貯蓄を増やすことができれば、確実に準備することができます。その場合、リスクを取って運用を取り入れなくても、目標とする金額を準備することができます。

中長期的な資産形成をする中でインフレリスクも考慮すると、運用を取り入れる効果はありますが、その場合でもリスクをなるべく抑えた運用で大丈夫そうです。

(2)運用を取り入れる
今の生活費をこれ以上抑えることが難しく、貯蓄を増やすことができなければ、目標を下げるか、リスクを取って運用して増やすことが必要です。運用を取り入れるといっても、むやみに運用すれば良いというものでもありません。どれくらいの利回りを目指すかによって、運用の方向性が変わってきます。

運用を取り入れる場合の目標とする利回りをみてみます。仮に現状の貯蓄額を積み立てていくと、年間貯蓄30万6,000円×12年=367万2,000円となります。12年後の目標金額の450万円を目指すためには、12年間で80万円ほど増やす必要があります。これは、こつこつ毎月積み立てながら、複利で運用をしていくと考えると、税金を加味しない場合約3.4%の利回りで運用していく必要がある計算となります。

効果的な準備方法は?

次に準備方法についてみていきます。結論から言うと、現在相談者様が利用されているiDeCoの活用が効果的かと思います。iDeCoのメリットは大きく3つです。

(1)積み立てる掛金が全額所得控除に
(2)運用益が非課税に
(3)受け取りの際に一定額が非課税に

iDeCoで積み立てる掛金は、全額が所得控除の対象となります。年間の給与所得から、掛金全額を差し引くことができるため、所得税・住民税の軽減効果があります。また、通常は、預貯金の利息や株式や投資信託の運用益には20.315%の税金が掛かりますが、iDeCoを利用した場合、運用益に対して非課税となります。受け取り時も、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」、年金として分割して受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、税負担も軽減されています。

iDeCoの注意点と相談者の家計との相性

注意しなければいけない点としては、原則60歳まで引き出せない為、60歳より前に使う可能性がある資金であった場合、必要な時に使えなくなることです。

ただし、ご相談者の場合は、現在手元にある程度の貯蓄があること、お子さまの教育費は終わっていることを考えると、逆に60歳まで使わずに確実に準備することができるのは、メリットになるかもしれません。

また、リスク性の資産で運用する場合は、将来の受取額が目減りする可能性もありますので、リスクについては十分把握した上で運用することが重要です。2022年5月の制度改正で、加入年齢が65歳まで引き上げられますので、ご夫婦で上手に活用すると、65歳以降の資産として準備することができます。

家計の見直しと最低限の運用を組み合わせて

住宅購入自体は決して無謀な購入でもないので、しっかりと返済計画をたて、将来リタイア後に向けた準備をコツコツしていきましょう。手持ちの貯蓄と、これから積み立てていく貯蓄とで、目的や期間に合わせた適度な運用を心掛けてください。過度なリスクを取って資産を大幅に目減りさせてしまうことは避けたいところです。家計の見直しと組み合わせながら、最低限の運用を取り入れることをおススメします。

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