田中将大、8回95球で見えた「リミッター解除」 省エネ投球を可能にした“出し入れ”

楽天・田中将大【写真:荒川祐史】

石井一久監督の方針は「中6日・120球」

楽天は29日、本拠地・楽天生命パーク宮城で行われたDeNA戦を1-1で引き分けた。先発の田中将大投手は8回5安打1失点の好投。今季最長のイニング数を95球という少ない球数で片づけたが、勝敗は付かなかった。現役時代にヤクルト、日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏は「完投できる余力はあった」と指摘し「リミッター解除の条件は整った」と断言した。

この日の田中将は普段にも増して“技巧派”の印象だった。95球中、ストレートはわずか22球(23.2%)。ツーシーム、カットボールを合わせてストレート系としても31球(32.6%)に過ぎなかった。一方でスライダーが34球(35.8%)、スプリットが25球(26.3%)を占めた。野口氏は「この日はスライダーが抜群で、ストライクゾーンギリギリの所で自在に出し入れができていたので、それを生かしたのでしょう。アメリカで覚えてきたスタイルの1つで、進化と言えると思います」と見た。

唯一の失点が、オースティンに浴びたソロ。6回2死走者なしの場面で、スプリット4連投でカウント1-2と追い込んだが、内角を狙った148キロが真ん中に入ったところを打たれた。「田中としては、ボール球の内角速球を見せておいて、次に外角の落ちる球を振らせる伏線にするつもりだったのでしょう。あるいは、無理に打ちに来て詰まって凡打してくれれば、それも良しでしたが、結果的に痛恨のコントロールミスになりました」と野口氏は分析した。

「田中将と則本昂が完投を見据えた投球をしてくれないと…」

就任1年目の石井一久監督は春季キャンプ中に「先発投手には中6日・120球を求める」との方針を掲げ、昨年までメジャーリーグで「中4日・100球」をメドに投げてきた田中将も例外ではないと明言していた。しかし今季7試合に登板しているマー君の最多投球数は、5月1日ロッテ戦の106球。打たせて取る投球で球数を抑えていたこの日も、同点で迎えた9回のマウンドには向かわず、守護神の松井に託した。

「右ヒラメ筋を痛めて今季初登板が開幕3週間後にずれ込んだので、これまで慎重を期していたのは理解できます。だが、肩や肘の故障ではないし、足のケガも既に癒えていると聞いている。そろそろリミッターを解除していいし、この日のようなピッチングができている時は完投の絶好のチャンスだったのではないかと思いました」と語る。

チーム事情も関係する。「先発5本柱のうち、岸が不調で抹消され、開幕投手を務めた涌井にも少し疲れが見える。新人の早川を無理に引っ張るわけにはいかない。残る田中将と則本昂が完投を見据えた投球をしてくれないと、リリーフ陣の負担が大きくなり苦しくなってくると思う」と野口氏。

今季の楽天投手陣の完投は、岸と早川が1度ずつ(29日現在)。いよいよマー君がマウンド上でゲームセットの瞬間を迎える姿が見られるか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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