<いまを生きる 長崎のコロナ禍>手書きは形にも心にも残る 会えない孫と交換日記

 

 離れていてもつながりたい-。長崎県西彼長与町の絵手紙講師、辻田滋子さん(63)は遠く離れた小学生の孫娘2人と交換日記を続けている。新型コロナウイルス感染の渦中、慣れない町で生活を始めた孫に新しい楽しみを届けようと始めた。1年以上会えていないが、文字や絵に成長を感じながら、家族がまた集える日々を待つ。
 26日午後、辻田さんは自宅に届いたレターパックを開けた。取り出したのは白地のA4判ノート。めくると、ページいっぱいに青い山と真っ赤な太陽が現れた。「富士山ですね。この前(孫たちが)見たみたい」。笑みがこぼれた。

「孫たちの成長を感じられてうれしい」と話す辻田さん=長与町の自宅

 描いたのは長女一家の、ここなさん(9)、ひなのさん(7)。昨年春まで辻田さん宅の近くに住んでいたが、父親の転勤で関東地方に引っ越した。新型コロナで休校が続き、外出もままならない生活。辻田さんも全国ニュースで2人の住む地域の感染状況を気に掛けていた。
 家でもできる遊びを、と思い付いたのが交換日記だった。「手書きの温かさ、待つ楽しみが味わえると思って」。好きなことを書き、好きなときに送る。赤と青の鉛筆だけを使う。ルールはそれだけ。「ここちゃん、ひなちゃんお元気ですか?おともだちがたくさんできたらいいね」。昨年4月上旬、得意の絵や家族の近況を書き込み、送った。
 孫たちは日々の出来事や気持ちをのびのびと書いて応えてくれた。引っ越しの段ボールが多くて驚いたこと、友達ができてほっとしたこと。ここなさんは「おまもり」に手作りのミサンガを同封してくれた。ひなのさんは大きなハートの絵に「ぜったい あうんだよ」と書き添え「ばあちゃん」との再会が待ち遠しそうだった。辻田さんには一つ一つの言葉がいとおしい。「LINE(ライン)で動画も届けてもらうけど、手書きは形にも心にも残る」

自宅のアトリエで、ここなさん(前列左)とひなのさん(前列中央)ら孫と集まる辻田さん=長与町(辻田さん提供)

 コロナは辻田さんの暮らしも変えた。長女一家の帰省はかなわず、同居する長男夫妻は医療従事者。みんなで食卓を囲む時間はなくなり、静けさに切なさが込み上げた。絵手紙の作品展も延期が続き、張り合いを失いかけた。
 そんな中で始めた交換日記。孫たちの使える漢字が増え、辻田さんの飾り文字や絵をまねてページがにぎやかになっていく。使う色を制限したのは想像力をはぐくむためだった。やりとりを重ねるたびに見つかる小さな成長。「直接会うだけだったら、こんなにも気付かなかったかも」
 会って話すのが一番だけれど、奪われたことばかりではない。「この富士山よりもすてきな絵、何を描いたらいいんだろう」。そう困ったように笑いながら、余白を見つめる。孫の反応を想像し、アイデアを練る時間もまた楽しい。

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