【コロナワクチン接種の医療職種検討会】薬剤師による接種検討は先送りも日薬安部委員「必要に備え準備する」

【2021.05.31配信】厚生労働省は5月31日に、コロナワクチンを接種する「打ち手」等に携わる医療職種に関して検討会を開いた。臨床検査技師、救急救命士については、普段の業務において人体への注射や静脈からの採血を担っているとして、打ち手とすることでおおむね同意が得られた(違法性の阻却が可能)。薬剤師に関しては、「接種の状況を踏まえて検討する」こととされた。検討会の中では、日薬の安部好弘氏が発言。「違法性の阻却や国民・多職種からの理解が大前提ではあるが、必要になったときに備えて研修などを準備していく」との方針を示した。

厚生労働省は5月31日、夜6時~8時まで、「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を推進するための各医療関係職種の専門性を踏まえた対応の在り方等に関する検討会」を開いた。

事務局案では、臨床検査技師と救急救命士の2職種について、「人体への注射や静脈からの採血を担っていることを踏まえれば、ワクチン接種の実施について、その専門性を活かして効果的に貢献いただくことが可能と考えられることから、まずは、これらの職種について、違法性が阻却され得るかについて検討を行った上で、必要な研修の教材作成や実技を含む研修実施体制の構築について具体的な検討を進める」としていた。一方、薬剤師、診療放射線技師、臨床工学技士については、「今後の接種の状況を見つつ、必要に応じて検討する」とした。

こうした事務局案に対し、検討会では大きな異論がなかったため、案にそった内容で「できるだけ早い段階で」事務局から事務連絡を発出する予定。

検討会の中では、日本薬剤師会副会長の安部好弘氏が発言した。

安部氏はまず、検討会に委員として参加したことに謝意を示した。

現在の薬剤師のワクチン接種への協力状況も説明。
「現在、薬剤師は地方の行政や地域の医師会と連携し、ワクチン接種の相談対応や薬液の調製、充填などをサポートしている。接種会場だけでなく、薬局での日常業務でも健康相談を通じて、地域住民に対して適切な情報提供などの支援にも取り組んでいる。薬剤師は地域に密着した連携体制のもとでワクチン接種の遅延のボトルネック解消へ向けて期待される役割を果たしていく」とした。

「事務局案にあるように薬剤師については、今後の接種の進捗状況を見つつ、必要に応じて検討することと理解している」(安部氏)との見方を示した。

その上で安部氏は、「ワクチン接種の注射行為に関して、薬剤師を検討の対象にすべきだとの意見もいただいている。そのような声を真摯に受け止め、違法性の阻却や国民や医療職種からの理解が必須にはなるが、今の段階から必要になったことに備え研修等準備を進めている」と方針を示した。

その背景として、薬剤師の6年制教育の中ではコアカリキュラムにのっとりワクチンや筋注の知識を習得しており、実技についても実習を行っていることを挙げた。
さらに、ワクチン接種の進捗状況だけでなく、変異株や若い世代の重症化などコロナの脅威の拡大に準備する必要もあることを挙げ、「対応が間に合わなくなることがないよう、今の段階から必要になったことに備え、研修などの準備を進めているところ」と述べた。

同日の検討会の場では、こうした安部氏の発言そのものへの意見はなかったが、薬剤師による接種をめぐっては「まずは調製、充填などで薬剤師には役割を発揮してほしい」との意見が複数示されていた。

日本医師会常任理事の羽鳥裕氏は、「川崎などのお話を聞くと、集団接種のところで打ち手不足はないと聞いている。慌てて頼む必要があるのかなという気がする」と述べた。「一番のネックは薬液の調製であり、薬剤師さんには調整のところで入っていただくのがいいのかなと思っている」とした。

「打ち手不足」そのものの問題についても看護協会からは、自治体の求人の仕方次第との見方が示された。日本看護協会常任理事の井本寛子氏は、「協力したいという看護師は多いが、自治体の求人がなかったり、あっても柔軟な働き方のできない求人。柔軟な求人にしていただければ打ち手不足は解消できる」と述べた。

日本医師会常任理事の釜萢敏氏も「現場でどういうところが足りないということが詳らかになっていない。地域によって事情も異なる」としたうえで、「もともとの分野でまずは貢献する方向性は妥当だ」と述べた。

打ち手等の医療職種の不足については、事務局はアンケート調査で医師・看護師の不足を挙げている自治体があると説明した。

また、万が一の事態の責任の所在について質問が出た。
これに対し事務局は、重過失などの場合は自治体が医療職種に責任を問うことは考えられるが、予防接種法にのっとり第一の責任は実施主体である自治体であり接種した人には救済制度がとられる」とした。

なお、臨床検査技師と救急救命士のコロナワクチン接種に関わる違法性の阻却の考え方については、先行している歯科医師と同様の考え。
原則は医師法違反であることから、医師・看護師が確保できないために医療関連職種の協力なしには集団接種が実施できない場合であって、必要な研修を受けており、被接種者の同意を得ていることが条件となる。

ただし、歯科医師と臨床検査技師・救急救命士には専門性に違いがあることから、研修の内容はそれぞれの専門職ごとに構築される予定。

今後、薬剤師による接種の検討を行うのか、あるいは検討会は随時開催されるのか等に関しては、事務局は「必要に応じて」と述べるにとどまり、開催有無についても言及しなかった。

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