モナコ在住の佐藤万璃音、FIA-F2で挑んだ“未知”のホームレース【独占インタビュー】

 2021年シーズンのFIA-F2選手権を戦う佐藤万璃音(トライデント)。F1モナコGPのサポートレースとして5月21〜22日に開催されたFIA-F2第2戦では、自身が普段生活するモナコでの初めてのレースを経験した。そんな佐藤に、モナコに住むきっかけから、モナコでの生活、そしてレースウィークについて聞いた。

* * * * * * * * *

──そもそもモナコに住むきっかけは何だったのでしょう?
「ティモ・ランプケイル(モトパーク代表)から受けた、“もっと明るい土地に住まないとダメだろう”との進言がきっかけだったと思います。彼のレーシングチーム(モトパーク)でFIAヨーロピアンF3選手権を戦い始めてからも、イタリアF4時代から住んでいたイタリア・フォルリの田舎の一軒家で、ヴィンチェンツォ・ソスピリ・レーシングのドライバーやメカニックと一緒に生活する時間は長かったですね」

──モナコ以外に住みたかった街はありましたか?
「自分の希望は特に無かったけれど、マネジメントチームとティモが話し合った結果、場所はモナコと決まりました。自分の部屋が正式に決まるまでは、スターティンググリッドを眼下に望む知り合いのレジデンスに住んでいました。この方とは2017年F1モナコGPを一緒に観戦させていただいてからのお付き合いで、今年もその部屋からF1の決勝レースを楽しみました」

──現在の部屋はどんな感じですか?
「2017年の末か2018年の頭には、そこを出て自分の部屋を確保しました。建物自体はモナコなのですが、玄関を出てゴミ捨て場はフランスという微妙な場所でした。いまは引っ越して、ラルボットというビーチに近いレジデンスに部屋を借りています。レジデンス前のエレベーターを降りて、道を一本渡ればビーチです。カジノ・ド・モンテカルロまでも歩いて5分くらい。かなり良い場所で、窓からは海も少し見えます」

──モナコに住み始めての印象を聞かせてください。
「とても便利です。狭い国だからバスでどこへでも出掛けられます。フランス・ニースのコート・ダジュール空港まではタクシーで30分弱。街の中心にはスーパーマーケットがあって歩いても5分くらいですし、店で買い物しているF1ドライバーも多い。同じトレーニングジムに通っているアルファロメオF1のアントニオ・ジョビナッツィなど、あのスーパーでは週5回くらい見かけます。あと、プロ・テニス・プレイヤーもけっこう多く住んでいる印象を受けます」

──モナコに住むにあたり特別な手続きや条件はありましたか?
「住むだけだったら特に何もいらないと思います。実際、僕はモナコの住人になったわけでもありません。マネジメントチームに紹介された不動産仲介業者と、部屋の賃貸契約を結んだだけです。現在の部屋に引っ越して住み始めたのは2020年からでしたが、昨年はFIA-F2のレーススケジュールの関係もあってほとんど来られなかった。でも、今年はバーレーンの開幕戦が終わってからけっこう長くここに居ますね」

──モナコに住んでいて良い点を教えてください。
「とにかく利便性に優れていますし、なによりも天候が良い。治安の面でも安心して暮らせます。知っているだけでも10人くらいの日本人が住んでいますし、WEC世界耐久選手権に参戦していた石川資章さんのレジデンスも僕のレジデンスからは近い。日本人が経営する和食料理屋さんもあります」

──今のお住まいの間取りや広さを教えてください。
「間取りはワンルームで、広さは50平米を超えるくらい。モナコで人間が住める最低限の部屋としては賃料のわりに広い。生活に必要な設備はすべて整っていますし、コストパフォーマンスに優れていると思います」

──普段、生活している街で自身のレースが開催される気分は?
「自分が普段から歩き回っている街でレースが開催されるというのは、奇妙な感じですね。今年に関してはほとんど人出が無かったけれど、レースの週末が近づくと自宅の周りでも人の流れはやはり増えました。FIA-F2のパドックはモナコ海洋博物館下の駐車場ですが、週末は原動機付自転車を借りて通いました。サン・デボーの第1コーナーが封鎖されていなければ10分で行けると思いますが、遠回りするから15分くらいは掛かりましたね。それでも自宅からパドックまでほとんど歩かなくて済むのでラクでした」

佐藤万璃音が2020年から住み始めたモナコのレジデンスからの眺め
佐藤万璃音が一時期住んでいたレジデンスからF1モナコGPを観戦した際の様子

■モナコで迎えた3レース。フリー走行の少なさが響く結果に

──モナコに住んでいても、あの公道コースを走るのは初めてですね。
「ええ。ですからその直前、スペイン・バルセロナに住んでいるトム・ディルマンの自宅を訪問し、シミュレータートレーニングに励みました。もちろんトライデントのシミュレーターも経験しました」

──ところで、フリー走行でのトラブルは何だったのでしょうか?
「そもそもはフリー走行で45分間走り込み、予選ではコース攻略を完全につかみきれないながらも限界まで攻めて、決勝ではタイヤの状態やクルマの重量との兼ね合いから、一歩二歩引いて走ろうと考えていました」

「でも、実際のところフリー走行では決勝用タイヤの皮むきを終えて、タイヤを履き替えてプレパレーションラップに出た直後のメインストレートで排気系のシステムエラーに見舞われてしまいました。一度もレーシングスピートで走っていないので、いきなりの予選で目一杯行くのは無理です。さらに決勝では、燃料満タンで限界を探らなくてはいけないのでかなり苦労しました」

──予選タイムは1分24秒091で、18番手からのスプリントレース1は19位でした。
「クルマ自体のアンダーステアも相まって、左フロントタイヤのデグラデーションがひどかった。ほかのクルマはそうした症状が出ていませんでした。セーフティカーのタイミングでピットへ入りタイヤを交換しても良かったのでしょうが、スプリントレース1の結果が同レース2のスターティンググリッドになる規則なので、そのまま耐えてトラックにステイしたほうがポジションはひとつふたつ上で終われるだろうと判断しました。ただ、左フロントタイヤはラバーをほとんど失っていて、最後はサン・デボーでぶつかってしまいました」

──スプリント・レース2は再びサン・デボーでリタイアでした。
「スタート直後の第1コーナー(サン・デボー)で左から当てられてタイロッドがダメージを受け、ステアリングを左に45度くらい切っていないと真っ直ぐ走れない状態でレースしていました。それでもラップタイム、ペースはだんだんと上がり、ブレーキングでも攻め込めるようになった」

「ただ、やはりステアリングが普通ではなかったので最後は限界を超えてしまい、第1コーナーのエスケープへ逃げるしかなかった。クルマの向きを変えてトラックへ戻りたかったけれど、ステアリングがちゃんと切れなかったのでクルマを降りるしかありませんでした。最後は第1コーナー奥のサン・デボー教会でお祈りしてきました」

──14位で終えたフィーチャーレースを簡単に振り返ってください。
「スタートが良くなくて順位を落としてしまいました。先行するクルマよりもペースは良かったけれど、あの狭いトラックでは抜けません。そこで大きくタイムをロスしてしまった。前のクルマがピットインしたのでオーバーカットするためプッシュしたけれど、やはり左フロントタイヤのグレーニングがひどかった」

「だからピットインしてオプションタイヤからプライムタイヤへ履き替えました。ただ、内圧の問題か最初の2、3周はまったくグリップしなかった。気温が低かったのも相まってそこでのロスは痛かった。レース終盤、最終コーナーへ差し掛かるところでバーチャルセーフティーカーが出て、その瞬間にピットインを判断、オプションタイヤへ履き替える判断は良かったと思います」

──そのフィーチャーレース終盤で良い見せ場を作ってくれました。
「レース終盤は、おそらく僕と周冠宇(ユニ・ヴィルトゥオーシ)が比較的新しいオプションタイヤを履いていたはずです。最後はファステストラップ(FL)を狙いに行きました。もちろん、入賞しなければFLの選手権得点を手にできないのは承知の上です。まともに戦えなかった予選でどれだけの速さを自分が引き出せるのか? それを確認する意味でも必要でした」

「結果的にFLを獲得した周から0.037秒後れの2番手に終わりましたが、自分の予選タイムに比べて2秒以上も速かった。やはり、フリー走行を走れなかったのは痛く流れが悪い週末でしたが、最後に良いペースで走れたし、FL争いは楽しかった」

──それではモナコでのレースウイークを総括してください。
「いまのFIA-F2マシンはクルマが大きくて重い。僕がこれまで経験した公道コースはすべてF3マシンだったから、大きく印象が異なりました。FIA-F2マシンはリアエンドが重いので、向きを変えるのはひと苦労。F3マシンのように攻めて攻めてという走りはできない」

「たとえばマカオのギア・サーキットは好きで、マカオGPのF3レースはフリー走行が50時間くらいあるじゃないですか?(編集注釈:実際は木曜40分間と金曜40分間の計80分間。走行機会がFIA-F2よりも多いという万璃音選手なりのジョーク) だから誰でもそれなりのところまでは行ける。でも、モナコに関してはフリー走行が45分間だけで、自分は1周もまともに走れなかった。それに尽きます」

──次のバクーも初体験の公道レースとなりますが、抱負を聞かせてください。
「まずはシミュレータートレーニングですね。スピードが速い区間が多く、その一方でスピードが低いヘアピンもあって、ドライバーはいろいろな技術が求められます。現状、僕らのクルマはアンダーステアが消えておらず、原因を突き止めないといけません」

「チームメイトもアンダーステアを訴えていますが、彼はそれほど苦労していないようです。いずれにせよ、公道コースは苦手ではありません。実際、2018年のマカオGPで僕は予選7番手でした。バクーは初めてですが、特に不安を感じるわけではなく逆に楽しみにしています」

モナコでの初レースを戦う佐藤万璃音(トライデント)
佐藤万璃音(トライデント)

© 株式会社三栄