ペット同行できる避難所は?  長崎県、全市町に設置呼び掛け

末吉さん夫妻と愛犬マロンちゃん。災害時に大事な命を守るためには、飼い主の日ごろの備えが重要になる=長崎県南島原市有家町(末吉さん提供)

 犬や猫など生活に潤いを与え、家族の一員と言えるペット。「災害時に連れて行くことができる避難所はあるのでしょうか?」。梅雨入りで災害の発生リスクが高まる中、長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」のLINE(ライン)にそんな質問が寄せられた。取材したところ、長崎県内では西彼長与町と佐世保市が「ペット避難所」の設置を公表し、県が昨年の台風10号を契機に県内全21市町に最低1カ所の設置と周知を呼び掛けていることが分かった。

 ■避難ためらう人も?

 昨年9月の台風10号。特別警報級の台風への警戒で行政機関が早めの避難を呼び掛ける中、「ペットと一緒に避難できないか」という住民からの問い合わせが各市町に相次いだ。
 ナガサキポストに質問を寄せた南島原市有家町、自営業、末吉貴浩さん(60)もその一人。8歳の愛犬マロンちゃんを自宅に残して外泊したことはなく「ペットを連れて行けないなら、避難を躊躇(ちゅうちょ)する人もいるのでは」と心配になったという。
 県生活衛生課によると、台風10号では13市町が、飼い主の責任による「同行避難」を受け入れた。うち大村、五島、長与、北松小値賀の4市町は事前に周知もしていた。ただ長与町を除き緊急的な措置。動物アレルギーなどの問題から受け入れを断ったケースもあり、避難場所の確保が課題として浮かび上がった。

 ■大規模災害を契機に

 ペットの災害対策を巡っては2011年の東日本大震災で、飼い主と離れ離れになって放浪する事例や、アレルギーを持つ避難者らとの共同生活でトラブルになるなどの問題が起こった。いったん避難した飼い主がペットを連れに自宅に戻り、津波に巻き込まれたケースもあったという。
 そこで環境省は13年に「同行避難」を推奨するガイドラインを策定。18年には、人とペットの災害対策を自治体が検討する際に役立ててもらおうと新たなガイドラインをまとめた。
 同省動物愛護管理室によると、18年の西日本豪雨では、岡山県総社市がペット連れ専用の避難所を市庁舎の会議室に開設。大規模災害を契機に受け入れ態勢整備が進む自治体も出てきたという。

 ■不十分な部署連携

 ただ、こうした動きは一部で「まだまだ普及していない」(同室)。理由としては、同行避難について防災担当者の認識が深まっていないことや、動物愛護の担当部署との連携、情報共有が十分でないことが挙げられるという。
 「いろいろな背景の避難者がいる中で、『ペット不可』ではなく、どうすればペットを連れた飼い主を受け入れることができるか、考えてもらいたい」
 同省は今年3月、自治体の受け入れ対応に関するチェックリストをまとめた。リストには過去の災害で得られた教訓を反映し▽アレルギーを持つ人との住み分けや導線の確保▽獣医師会や愛護団体との連携―などを記載。受け入れ可能な避難所の公表も盛り込み、自治体に態勢整備を促している。
 こうした国の動きや住民からの声を受け、長崎県は昨年10月、各市町とオンライン会議を開き「ペット避難所の設置」と「ホームページなどでの公表」を呼び掛けた。会議には市町の動物愛護と防災の担当者が参加。環境省動物愛護管理室も「両方に働き掛けてもらうことは非常に意義深い」と県の取り組みを評価する。

 ■倉庫や車庫で対応

 5月18日に開いた2回目のオンライン会議では4市町が「設置、公表済み」、または「予定」と答えた。
 県内市町で〝第1号〟となった西彼長与町は昨年5月に町のホームページに掲載。受け入れを求める住民からの声を受け、役場公用車車庫棟と「ふれあいセンター」玄関横倉庫の計2カ所で対応することを決めた。実際に同9月の台風10号では猫1匹を受け入れた。
 佐世保市は今年6月1日発行の広報紙で、世知原、小佐々、清水、三川内4地区のコミュニティセンターへの設置を公表。施設内の倉庫や車庫の一部を使用する。五島市は5カ所、北松小値賀町は2カ所の設置を調整中で、7月ごろ公表予定という。

 ■「同伴」は認めず

 動物アレルギーや感染症リスクなどの問題があるため、避難者と同じ居住スペースにペットを連れ込む「同伴避難」は4市町とも認めていない。厳密には飼い主とペットが分かれて避難する形にはなる。
 長与町の担当者も「コロナ対応でスペースが限られる中、飼い主がペット避難所の近くに避難できない事態も想定される。これで完璧ではない。臨機応変に対応するしかない」と話す。
 残りの17市町も前向きに検討しているが「どういうルールで受け入れるか、施設側との打ち合わせも必要」(平戸市など)。そもそも動物の入館を認めていない施設もあり、調整に苦慮している。長崎市は事前に問い合わせがあった場合、受け入れ可能な施設か個別に判断しているが、アレルギーなどの問題で「入り口が1カ所で導線が分けられない」といった施設は難しいという。

 ■飼い主の責任

 避難に当たってはケージに入れることなど飼い主の責任を前提にしている。県は2017年に県災害時動物救護対応ガイドラインを策定し、ホームページに掲載。飼い主に▽平常時の情報収集▽マイクロチップ装着などによる所有者の明示▽ペットフードや水など防災用品の準備▽基本的なしつけや感染症予防対策-を求めている。県生活衛生課は「大事な命を守るには飼い主の日ごろの備えが重要になる」と強調する。
 ナガサキポストに質問を寄せた末吉さんも「誰もが安心して避難できる環境づくりは大切」と同行避難の注意点に理解を示す。狂犬病予防のワクチン接種など日ごろから愛犬の適正管理に努めており、飼い主の責任は当然のことと考える。
 「だって家族ですから」

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